2 | ナノ

「ギャラドス、たきのぼり! リザードン、避けてエアスラッシュ!」
龍のような手足の無い長い胴体を持ち、顔には細長いひげをたくわえたポケモン、きょうぼうポケモンのギャラドス。
そしてギャラドスが東洋の龍なら、こちらは西洋の竜だろう。
二足歩行で背中に翼を持ち、長い首に一対の角と鋭い牙の生えた頭部、なにより特徴的なのが尻尾の先に燃える炎だ。
オレンジ色の体のそのポケモンは、かえんポケモンのリザードン。
グリーンの初めてもらったポケモン、ヒトカゲの最終進化系だ。
ギャラドスの滝をさかのぼるような勢いの突進から宙に逃がれ、空気を切り裂く刃で切りつけた。
「よし、そろそろ休憩するか。ギャラドス、戻れ」
彼はギャラドスをボールに戻し、リザードンに歩み寄る。
「……なあリザードン、覚えてるか? 三年前の、最後のレッドとのバトルを」
その言葉に、リザードンは穏やかに頷いた。
「ッハハ、笑えるよな。世界一にまでなったこのオレ様の、しかもレッドなんかに負けた理由が『ポケモンへの信頼と愛情を忘れとったから』だぜ?」
彼は自嘲気味に笑い、あの敗北の後、駆けつけた彼の祖父、オーキドから言われた言葉を反復した。
「そんな当たり前のこと、……なんで、オレは忘れてたんだろうな……」
もちろん、理由は自分でも分かっている。祖父に認めてもらう為、それもあるが、一番はライバル、レッドの存在だ。
自分と歳も身長も成績も、何もかも変わらない幼なじみ。昔はよく一緒に遊んでいたが、そんな彼にグリーンは、いや、お互いに、いつからかライバル心を抱くようになっていた。
だがそんなレッドに、旅に出てようやく差をつけられるようになった。バトルもポケモン図鑑の完成度も手に入れたジムバッジの数も、常にグリーンは彼の一歩先を進んできていた。
しかし最後のバトルだけは、勝てなかった。ついに、彼に追い抜かれてしまった。
その敗因が、先ほど彼が口にした言葉だ。レッドにだけは負けまいと必死になっていたグリーンは、いつの間にか強さばかりを求めてそれを忘れてしまっていたらしい。
「……って、なにナーバスになってんだオレは! リザードン、次はレッドとのバトルだ! 今度こそあいつに勝つぜ! もうあの時とは違う、負けるわけがねえ!」
少しナーバスになっていた自分の頬をパン、と両手で叩いて気を取り直す。
この三年間、いつ彼とバトルしてもいいように鍛えてきたのだ。 ポケモンへの愛情と信頼だって、もうとっくに分かっている。
「このオレ様が世界で一番強いってことを、あいつに分からせてやらねえとな! 出て来いフーディン!」
そんな自分が負けるはずが無い。いや、ポケモン達の為にも負けられないのだ。
なのにナーバスになっていてもしかたがない。
彼は特訓を再開するために、今度は尖った耳で長いヒゲ、キツネのような顔立ちで両手にはスプーンを持っているエスパータイプのポケモン、フーディンを出した。

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