その1 | ナノ
「ふんふふ〜ん」
ボクはベリル・ベニト。いつかは宮廷画家になる未来の大巨匠だけど、今は仲間と一緒に旅をしてるんだ。
そんな旅の途中でボクは、とある街の宿屋の一室で、ベッドに腰掛け、鼻歌交じりに絵を描いている。
やっぱり絵を描くのは楽しく、ふと時計を見るとすでに1時間ほど経っていた。
何を描いているかというと、僕を助けてくれた少年、シング・メテオライトだ。バカで能天気で世界で一番乙女心が分からない鈍感でガサツな彼だけど、何度もボクを助けてくれた、ボクの大事な……。
「ベリル! なに描いてるんだ?」
「うひゃあ!? し、シング!?」
「え? うん、オレだけど……」
……と、とにかく、ボクが楽しく絵を描いてると、ワクワクしたような声色で件の彼がキャンバスの裏からひょっこりと顔を覗かせた!
まさか人が、しかも今1番来てほしくない、いや、シングが来てくれること自体は嬉しいんだけど……。とにかく、彼が来ると思っていなかったボクは、驚きと焦りでビクッと跳ねてしまった。慌てて絵を彼に見えないようにして筆を置くと、彼はボクの明らかに怪しい動作を不審に思ったのかボクをじっと見つめてきた。
うう……。なんでシングが来たのに気付かなかったんだろう……。
「……どうしたんだ、ベリル?」
「どうもしないよ!」
いぶかしげに尋ねてくる彼に焦って思わず語気を強めてしまったが、彼はそっか、なら良かったよ、と言ってボクの隣に腰掛けた。
「ところで、なにを描いてたんだ?」
そして最初と同じ言葉を投げかけてくる。
けど、本人に面と向かってシングを描いていた、なんて言える勇気はボクには無い。言葉に詰まっていると、シングは言いたくないならいいよ、と言った後に、けどベリルの絵、見たかったなあ、とつぶやいた。
「……今描いてるのは見せられないけど、代わりに今度なにかシングの描いてほしいものを描いてあげようか?」
「ホント? ありがとう、ベリル!」
ボクの言葉を聞いたシングはすぐに笑顔に変わり、直後になにを描いてもらおうかなー……と腕を組んで考え込む。
うーん、とうなったり、そうだ! と明るい顔になったかと思えばまたうなったり。彼の素直な反応はやっぱり嬉しいし、表情の変化も見ていて飽きない。
やっぱり、ボクはシングのことが好きなんだな、と再確認した。
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