「名前、頼むから俺とよりを…!」


って知らない男が電話越しに言いかけた瞬間、目の前の彼女は電源ボタンを力強く押してブチッと切ってしまった。


「………うっざ」

「また別れたんさ?」

「でも3ヵ月だよ。あたしにしては長くない?」

「………、モテる女の嫌みさね」

「うわラビもうっざー」


俺と彼女は所謂幼なじみってやつで昔からずっと一緒にいる。そんでもってこいつは異常なほどモテる。そんであろうことか来る者拒まず去る者追わずなわけで。俺は毎日ハラハラドキドキな生活を送っている訳だ。


「今ので何人目さ?」

「わかんない、忘れた」

「…んで、今回は何が原因?」

「キスが下手だった」


ぶ、思わず飲んでたお茶を吐いてしまった。嗚呼、名前も大人になったんさね。キスの上手い下手で相手を選ぶなんて。


「ラビ汚な!もー…、へーき?」


名前は俺がこぼしたお茶を丁寧に拭いていく。ああうん、こういうとこきゅんとする、かも。


「あ、ありがとさ…。てかちゃんと好きじゃないのにそゆこと…」

「違うよ、好きじゃないからできるの」


そう言って彼女は笑った。俺の大好きな笑顔で。言ってることは悪魔みたいなのに笑顔だけだったらとびっきりの天使だ。


「ふーん、よくわかんね」

「えー、わかってよ」

「え、だって好きじゃなかったら触んないもん俺」

「じゃあもし好きな子に彼氏できたらどうする?」

「あー?そんなんまいか…」


「い」って言おうとしたギリギリのところでハッと気づいた。危ねえ危ねえ長年隠し通している気持ちがバレるところだった。


「あ、好きな子いるんだ?」

(うんいるよ、俺の目の前に)

「半分以上は諦めてるけどな」


苦笑混じりに言ったら、彼女がちょっと考えてから満面の笑みになった。あ、嫌な予感。


「じゃあさ、あたしと付き合おうよ」


今日フリーになったばっかだし。ラビ嫌いじゃないし。と彼女は付け足した。なんとも君らしい理由だと俺は呑気に思った。


「残念ながらお断り〜」

「あ、やっぱ?好きな子いるんだもんねー」

「うん、俺一途なの。だからもう出てって?気分わりぃ」


今日のラビうざー!なんて言いながら君は教室を出て行った。助かった、なんて内心思いながら俺はおろしていた前髪を掻き上げる。窓の外では夕日が沈もうとしていた。あと少しで夜がくる。


「あー……苛々する」


欲しいのは偽りの関係じゃなくて、
嫌いじゃない、ってことは好きでもないってことだろ?

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