あたしの中の男の子っていう生き物はどんなことがあっても泣かない強い生き物だった。でも今、その男の子はあたしの目の前で泣いている。
「総ちゃん。」
「っ、う……」
「あたしが、いるから。ミツバさんにはなれないけど、あたしが総ちゃんの傍にいるから」
「名前、お前だけはいなくならないで下せェ…」
「、…ずっと総ちゃんの傍にいるよ」
* * *
あれから随分と経った。あたしはあの時の約束通り総ちゃんの傍にずっといる。甘味屋で働いていたあたしは総ちゃんの手配で屯所の女中をすることになった。
「沖田さん。お掃除終わったんで私はこれで…」
「待ちなせェ。なんでィ"沖田さん"って」
「だ、だって…私は女中な訳で…」
「いつもみたいに呼びなせェ。あと敬語もやめろ」
「あ、う、うん。」
いやあたしだって出来るならそうしたいさ。うん。だけどね、先輩方の目が怖いのさ。なによあの子、みたいなね。ほら、総ちゃん見た目だけならイケメンだから。
「あ、じゃあ総ちゃん、あたしそろそろ下がるから…」
「オーイ総悟、見回り行くぞ。と、邪魔しちまったか?」
「ひ、土方さ…」
「全くでィ。今キスできそうな雰囲気だったてのによォ」
「いや、全くそんなんなってないから!」
「相変わらず仲良いなァ、オメェら」
「あ、ち、ちが…あの、」
いつもそうだ。コイツは土方と話すとき真っ赤になりながらもじもじもじもじ…
「総ちゃんも違うって言、っ!、やっ…」
土方の目の前でキスしてやった。案の定アイツは「お盛んなこった。」なんて台詞を言って部屋を出ていった。
「ふ、ぁ……や、」
ほら、俺がちょっと深いキスをすればコイツの頬は赤く染まり、熱を帯びた表情になる。
「……、総ちゃん。あたしもう下がるね」
「もうちょっと、いいじゃねェか」
「で、も……あっ」
俺から離れようとする細い手首をひいて、自分の腕の中に収める。
「ずっといてくれんだろ?」
「うん、……大好き、だよ」
「俺は愛してますぜ」
君を手放せない僕を許して
その"大好き"に迷いがあることなんて随分前から気づいてた。あのヤローに惹かれてることくらい随分前から気づいてた。だけどお前は俺から離れられないから、ずるい俺はいつまでもお前を苦しめる。