ペシミスト
物事を悲観的に考える人。悲観論者。厭世主義者。



「あたし、晋助になりたい」

「なんだ唐突に」

「晋助くらい男前なら女の子にモテモテでしょ?」

「なんだオメェ、同性愛者だったのか?」

「ちげーよ馬鹿。晋助みたいなイイ男だったら男になってもいいかなーって」

「まァな」

「なにちょっと誇らしげな顔してんの?あたしが褒めてんのはあくまで顔オンリーたがら。所詮君は顔だけの男ってことだから。」

「褒めるかけなすかどっちかにしろ」


辺り一面には暗闇と静寂が広がり、お月様だけが一人ひっそりと夜空に浮かんでいる。その月明かりを全身に浴びながら私と晋助は二人だけの空間を享受する。最近はこういう時間すら減った。最近の晋助はなにかと多忙だ。それこそ、いつ食事や睡眠をとっているのかと聞きたくなるぐらいに。


「俺もお前みてェなイイ女だったら変わってやってもいいけどなァ」

「まじでか。じゃあ交換しよう。今すぐ交換しよう」

「と、言いてェところだがそういう訳にはいかねェ。女じゃ俺がやろうとしてることは到底できねェだろうしなァ。第一お前は別にイイ女でもねェ。クク」

「オイ、最初はいいとして最後の取り消せ、最後の」


やっぱり晋助はあたしのことなんて眼中にないんだ、そう改めて実感して私は今日も晋助になりたいと願う。せめてその痛みを苦しみを悲しみを、全部あたしが変わりに背負えたらいいのに。でもたとえ晋助とあたしの中身が入れ替わることに成功したとして、それでも尚晋助はあたしの体でこの世界の終焉を夢見るのだろう。


「クク、冗談だ。テメェは十分イイ女だぜ?」

「……、思ってもないクセに」

「そう拗ねんな。綺麗な顔が勿体ねェ」

「っ、調子乗んなばか!」

「何キレてんだよ」

「死ねハゲ!晋助のタラシ!」

「痛ェな。やめろ」


からかわれているだけだというのにカアッと頬が熱くなるのを感じた。照れ隠しにぼかすかと晋助の背中を殴る。畜生。そりゃあこんな綺麗な顔であんなこと言われたら誰だってこうなるはずだ。恥ずかしい。さっきまで「痛い」と「やめろ」しか言わなかった晋助があたしの変化に気づいたのかなんなのか急にクツクツと笑い出した。彼に唯一残された左目がさぞ楽しそうに細められる。


「可愛いヤツだなァ、お前」

「なっ!、なっ、な……」


その言葉にまた動揺する私を見て晋助はまた楽しそうに目を細める。私は昔の彼のことなんて一ミリも知らないけれど、きっと昔はこんな笑い方じゃなかったんだろうなと思った。もしこの世界が終わる日が来たとして、彼が昔のように笑える日は来るのだろうか。


ペシミストの幸福論
破壊することでしか愛を見出だせない可哀相な人

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