毎晩のように壊せ壊せと脳の裏側で何かが喚く。それに対してうるせェ、と返す俺は一体何者なんだろうか。先日俺の船に乗り込み散々暴れた後に「次会った時は斬ってやる」などという言葉を残して逃げて行った懐かしい顔。
「あの頃の晋助が何よりも信じていた仲間だったんでしょう?」
その晩アイツは俺にそう聞いた。そんなんじゃねェと返す俺にその女は黙り込んだ。
「オイ、何黙りこんでんだ」
「悲しいね、」
「あァ?」
「しんすけは、かなしいね」
そう言って声も起てずにポロポロと涙を零す。訳のわからない俺はただそれを見つめるばかり。
「お前、頭おかしいんじゃねェの」
「うん、そうかもしれない」
「大体、俺が悲しいなら何でテメェが泣くんだよ」
「晋助が泣かないから」
「………、意味がわからねェ」
「大事なものを失うのは悲しいよ」
「知ってる」
「大事なものを壊すのは悲しいよ」
「っ、さっきから何が言いてェ」
「 。」
その言葉を聞いた瞬間に何も言えなくなった俺といつの間にか泣き止んでいたアイツ。今日も脳裏では壊せ壊せと俺の中の何かが喚く。
沈む太陽、浮かぶ月
「せんせいは、もうかえってこないんだよ」