現代版ロミオとジュリエットとでも言えばこの恋を正当化することはできるのかな。
「残念だよアレン」
「っ、なにが……ですか」
「こんなに愛してるのに」
演技がかったような口調でそう言えば、彼は下唇を噛み締め、いつもとは違う敵意を込めたそれで私を見る。
「やめて下さい。虫酸が走る」
「あはははっ、ひどいなあ。こんなに愛してるのに」
「その笑顔も、嘘だったんですか?」
「んー、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
真剣なアレンとは真逆に何が面白い訳でもなくクスクスと笑う私。
「君がノアだった、なんて」
「あれ、まだ信じないの?現に貴方の脇腹血まみれじゃない」
「っ、」
「何その顔?すごいムカつく。恋人に裏切られた挙げ句その恋人に殺されそうになってるってのに」
「だって君は僕を殺す気なんて一ミリもないでしょう?」
ニヤリ、勝ち誇ったような意地の悪い顔で血まみれの彼は笑う。嗚呼、昨日まではこの顔さえ愛しかったのに。
「アハハハハッ、ほーんとムカつくね、アレン」
「それはどうも」
「悔しいけど正解。本気になれば簡単なのにどうしても殺せないの。馬鹿みたいでしょ?」
「はは、随分となめられたもんですね」
「だからさー、一思いにやっちゃってよ」
「…………何、を」
「あははっ、やだなあ、わかってるくせに。アレンの退魔の剣でさあ、ザクッとやっちゃってよ」
殺されるなら貴方がいい。どうせ私はまた生まれ変わるから、終わり方なんてどうだっていいの。だって貴方を愛した私とは今日でお別れだもの。きっと次のあたしは貴方を愛さないから。
「僕、本当は最初からわかってたんです。」
ふわり、いつもの優しい香りがあたしを包む。ああ、アレンの匂いだ。背中に回された腕、頬をくすぐる柔らかい髪、耳元で囁かれる優しい声、その全てをあたしは愛していた。
「っ、あれ、」
「君が、ノアだってこと。」
「ふふ、踊らされてたのはあたしの方だった、ってことかしら」
「愛してましたよ」
あたしの視界はどんどん暗くなる。腹部に突き刺さった彼のイノセンスに侵されながら、愛しのロミオにおやすみのキスを一つ、
「さようなら、アレン」
そうしてジュリエットは深い深い眠りに墜ちた。残されたロミオは既に事切れた彼女の骸を強く抱きしめ歯を食いしばる。頬を伝う涙は彼が彼女を愛していた紛れも無い証拠だった。
貴方に殺されるなら本望よ
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