吐きそうになるくらいの白に溺れかけた。あたしがいくら他の色に染まろうとしても、その色はその上をすぐに白く塗り潰してしまう。逃れられない、と悟った頃にはもう遅い。
「名前っ名前っ、雪積もってますよ!」
「ふふ、アレンこそ、頭につもってるよ?」
くすくすと笑いながら言えばあわあわしだす真っ白な彼。可愛い、だなんて思うのは不謹慎だろうか。
「雪だるまにー、かまくらにー、雪合戦!あとでぱっつんにぶつけましょう!」
「ふふふ、随分とご機嫌だね」
「だって雪ですよ!テンション上がっちゃうじゃないですか!」
嗚呼この人はなんて綺麗に笑うんだろうか。純粋で、真っ直ぐで、曇一つない綺麗な笑顔。
「あたしは嫌いだな、雪」
雪を見るたび嫌な思い出が蘇る。心臓にまで響く機械音、銃声、誰かの悲鳴。血に染まる両親、崩れ行く家々。ただただ降り続ける、白。
「あ……、そうですよね…。無神経で…、すみません」
「なんで謝るの?人それぞれ好き嫌いはあるでしょう?」
AKUMAの襲撃で故郷を失った。もう帰る場所なんてない。だから此処にきた。いつ死んだっていいと思っていた。だってあたしにはもう何もない。
「………え、?」
ふと気付いたら視界が真っ暗だった。背中に回された手、耳に響く心音。
「なに、アレン、どしたの?」
「僕…白髪ですみません…」
「…ぶっ、ははは、何を唐突にそんなこと…」
「好きです。君が僕を嫌っていても」
「……、なんで…それ、」
そう、私は彼が嫌いだった。あたしの大嫌いな真っ白なくせにあまりにも綺麗に笑う。私の知らない白に吐き気がした。
「だって貴方、僕を見るとき今と同じ顔するんですもん」
嗚呼、あたしの世界がごぽり、と真白に沈んでゆく。
(あたしはもうこの温もりから抜け出せない)