月が綺麗だと貴方が言うから、あたしもあの月を綺麗だと思うことにした。
この世界が憎いと貴方が言うから、あたしもこの世界を憎いと思うことにした。別に攘夷浪士だとか幕府だとか天人だとかそんなものに興味なんかなくて、ただ単純に貴方がこの世界を憎んでいるからあたしもこの世界を憎もうと思った。
「なァ、お前は今何考えてやがんだ?」
最近の高杉はこればっかり私に問うけれど、私はそれに答えない。いつからだとかきっかけはなんだったとかはもうはっきりと覚えてはいないけれど、私はあまり喋らなくなった。
* * *
ひどく船が揺れる日があった。地響きのような叫び声のような轟音が響く廊下を彼を探すために駆ける。
「!、名前…?」
「………こたろ、…」
「丁度良かったなァ名前、見ろ。銀時がきてる。」
「………銀ちゃん…」
あまりにも懐かしすぎて長髪の彼の名前を呼ぶことにすら戸惑う。久しぶりに見た同士の顔からはすっかりあの頃の笑顔は消えてしまっていた。私を咎めるような、悲しげな目だった。
その日の夜、晋助は酷く機嫌が悪かった。それと比例するかのように私の心臓もじくじくと痛かった。
「オイ、テメェは今何考えてやがる」
いつもの問いとは違う、少し乱暴な口調でそれを聞かれた。当然私は答えない。
「オイ、」
苛立ちのこもった声が耳の奥の方でした。彼の骨張った細い手があたしの首に絡み付く。酸素の供給が行われない肺からはヒュー、と情けない音が漏れた。
「月、が……」
やっとのことで搾り出した声に反応するかのように首にかけられた手が離れた。酸欠でくらくらする。脳がうまく機能しない。ゴホゴホとこれまた情けなく咳込む。
「月が、なんだよ」
先程とは打って変わって優しげな彼の声が薄ぼんやりとした脳内に響く。
「月が綺麗だと…、」
それは満月の度に交わした決まり文句。貴方はまだ覚えているでしょうか。
「あの月も俺が壊してやるよ」
「………………ええ、」
きっとあたしは搾り取ったみかんの汁の最後の一滴のような声だったに違いない。クク、と浅く笑う声がした。貴方があの月を綺麗だと言えなくなっても変わりにあたしがあの月を綺麗だと言うから、そう決めていたはずなのになぜだか泣きたくて泣きたくて堪らなかった。
満月の夜に貴方と