子供たちに夢を与えるサンタという知らないオッサンはいつしか夢なんてとうに枯らしてしまったはずの父親という名のオッサンに変わった。周りの友人がサンタさんにD●iやP●Pを頼むと言うので、自分もとサンタさんに伝えてくれと母親に頼むと、「うちにくるサンタさんは貧乏だから一万円以上のものはくれないんだよ!」と決まって叱られた意味も、もうわかるようになった。大人になるということは、すなわち、子供の時に思い描いていた夢を失うということだ。ああなんと悲しいことだろうか。



「メリークリスマース」

「…………は?」

「いやだから、メリークリスマース」

「ちょっと誰か警察。サンタの格好した不審者が」

「俺が警察でィ」

「あ、そうだった。世も末だな」


今年も寂しく一人のクリスマスか、なんて思いながら気分だけでもと買ってきたチキンを頬張っていたところにチャイムが鳴った。郵便屋さんもクリスマスに仕事だなんて不憫だ。そう思ってドアを開けたらそこに立ってたのはサンタの格好したアホみたいな、ていうかアホでした。


「なんでィ。せっかくサンタさんが来てやったんだ。もっと喜びなせェ」

「わーい、サンタさんだー」

「サンタなめてんのか。こちとら"何が悲しくてクリスマスに仕事しなきゃなんねェんだ。よし、どうせサボるなら今年も一人で寂しくクリスマスを迎えてるであろうメス豚のとこにでも行っていっちょイタズラでもかましてみるかな"っていう崇高な考えの元来てやったんでィ!」

「オイコラ、なにが崇高だ。しかも今年もってなんだよ今年もって。お前去年も来ただろうがァアアア!」

「あれ、そうだっけ?」

「さんざん人んちのチキン食い荒らしといて覚えてねーとか言わせねぇぞコノヤロー」

「すいやせん、覚えてねェや」


総悟はしれっと言って、さも当たり前かのようにサンタの格好したままズカズカとウチに上がってきた。あ、よく見るとこの格好似合ってんなコイツ。


「なにジロジロ見てんでィ。金取るぞ」

(………、でも性格は最悪)


しばらくして一番大きいバケツで買ったはずのチキンは骨と皮だけの見るも無残な姿になった。これを見ていると毎年なんだか悲しくなってしまう。


「まだ待ってんのかィ」

「え?」

「約束したっていう男」

「ああ、……わかんない」

「オイオイ、テメェのことだろうが」

「もう何年も前の約束なんだもん。アイツのことだからきっとどっかで野垂れ死んだか、別の女のとこにでもいるんじゃないかなあ。どっちにしろ、もう会うことはないだろうし」

「でも今年も待ってたじゃねぇか。」

「待ってないって」

「明らかに一人じゃ食い切れねぇ量のチキン買って、こんなデケェケーキ作って、ツリー飾って、それでもまだ待ってねぇとかほざくんですかィ」


急に空気がシンとして、テレビから流れてくる楽しげなクリスマスソングが酷く滑稽に聞こえた。総悟に言われて初めて気がついた。ああ、そうか私はあの人を待っていたのか、と。


「俺にしなせェ」


ポツリとそう言って、総悟は白いクリームの上にこれでもかと自己主張する赤く熟れた苺にフォークを突き刺した。何年待っても帰ってこなかったサンタは、3年前からチキンを荒らしにくるひどく大人びた餓鬼に変わった。


いつしか僕らは大人になった

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