「俺も昔はやんちゃしてたわけよ、」



銀ちゃんは酔うと時々、本当に極稀に昔の話をする。その時の銀ちゃんはとても楽しそうに、それでいて哀しそうに、ころころと表情を変えて喋る。その姿が、普段のおちゃらけた姿からは想像できないくらいの色気を放つもんだから、こっちにしてみれば堪ったもんじゃない。



「んで、その時高杉がよー」

「ふふふ、」

「え、何で笑ってんの。オチはこれからよ?」

「だって銀ちゃんさっきからその人の話ばっかり」

「え…、?」

「その人とよっぽど仲が良かったんだね」

「仲良くなんか…っ!……ねぇ、」



ガタンと音をたてて銀ちゃんが机に手をついて勢いよく立ち上がった。いきなり発っせられた怒声にも似た大きな声に驚いてびくりと肩を揺らした私を見て、ハッとしたように銀ちゃんは語尾を小さくして、すまねえと小さく呟いた。



「………………。」

「ご、ごめんね…」

「寝る」

「あっ、わ、わかった!お布団しいてくるね。」




* * *




俺の腕に小さな頭を乗せて寝息をたてる彼女とは、戦が終わってから知り合った。そして、今の俺にとって一番大切な存在でもある。戦に疲れ、言い知れぬ喪失感に襲われていた俺を暗闇のどん底から引き上げてくれたのは、何処の誰でもないコイツだ。背中に回していた手に少しだけ力をいれて、細い身体を自分の方に抱き寄せた。



「よっぽど仲が良かったんだね」



ふと、先程の彼女の言葉が頭を過ぎる。



「仲が良い、とか、そんなんじゃねぇんだ。俺らは、ただ」



一人分の寝息と自らの呼吸音しか聞こえない部屋に、ぽつりぽつりとまるで心の中につっかえていた何かを吐き出すかのように呟いた。



「お前もいつか、いなくなっちまうんじゃねぇの?」



返事は、ない。当然か。こんなにぐっすり眠っているのだから。どうかそのまま、今だけは深い眠りに落ちて瞼を開けないで欲しい。そんなことを思っていたら、もぞりと腕の中の彼女が動いた。



「銀ちゃ、」

「おう、どうした。便所か?」

「あたし、ずっといるから」

「え?」

「いなくなったりなんかしないよ。だから、だいじょ、ぶ……」

「………なにお前」



いきなり起きたかと思えば、それだけ言ってまた瞼を閉じて俺の背中に手をまわした。



失うことの辛さを知ったあの日から、もう大切なものはつくらないと決めていた。コイツと一緒になった時から、己で作ったそのルールに締め付けられて、一向に先の見えない穴へとずるずる堕ちていた。(俺はまた同じことを繰り返すのか、また同じ痛みを味わうのか。)答えの出ない自問自答をするたびにずくん、と胸がえぐられるような感覚がして、酒に酔ったフリをしてコイツに昔の話をした。



「は、情けねぇなぁ…」



苦笑混じりにそう呟いて俺は瞼を閉じた。近い将来、この腕の中の温もりをたとえ守れなかったとしても、俺の全身全霊をかけて守ろうと思った。今夜は久々に深い眠りにつけそうだ。


泣きそうで叫びたくて

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