「なんでさあ、あたしが目の前で泣いてるのにさあ、宮村はさあ…」


語尾をさあさあ伸ばすこの喋り方は自分でもひどく頭の悪いように思えたけれど、今はそんなことどうでもよかった。ああむかつくむかつくむかつくむかつく。私が泣いているというのに、ケータイの画面と睨めっこしているこの男、宮村伊澄は全くと言っていいほど私に関心を示さない。


「ねえ聞いてんの」

「俺には名前が俺になにを求めてるかがわからないんだけど」

「そんなの…っ!大丈夫?とかどうしたの?とか色々あるじゃん!馬鹿じゃないの?」

「じゃあ、"ドウシタノ?"」


むかつくむかつくむかつくむかつく。やっと口を開いた宮村は一度もこっちに目を向けないまま棒読みでそう言った。携帯を持つ右手の指がせわしなく動いている。誰かとメールをしているようだ。


「俺出るけど」

「どこいくの」

「別に」

「"ホリサン"?」

「さあ?」

「ほんとムカつくよね」

「電話もメールも返ってこないって谷原くんが心配してたよ」

「……、ふーん」

「喧嘩するたび俺んち来て泣くの、いい加減やめたら」


じゃあ、と言って携帯をズボンのポケットにつっこみながら宮村が立ち上がった。咄嗟に彼のカーディガンの裾を掴む。振り返った顔はひどく歪んでいた。


「マキと喧嘩なんかしてないよ。いつもいつも、宮村んちに来るときは喧嘩なんかしてない」

「…………」

「あたしは、宮村が…「ストップ」

「…なんで」

「もう少しで谷原くん迎えにくるって」

「みやむら…っ」

「谷原くんっていう彼氏がいて、大学の推薦も決まってて。名前はこれ以上なにが欲しいの」














「…すき」


その言葉が吐き出されるのと私の涙がこぼれ落ちるのと彼がドアを閉める音が部屋に響いたのはほぼ同時だった。


しばらくして、息を切らしたマキが先程宮村によって閉じられたドアから部屋に入ってきた。彼はぼろぼろに泣いている私を見て何か言おうとしていたけど、それを止めるように勢いよく彼に抱き着いて「好き」と言ってキスをした。そしたらマキは嬉しそうに笑って優しく私を抱きしめた。この人なんでこんなに私のことが好きなんだろうか。


マキが宮村だったらよかったのに。

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