「染めようかなあ」
「何を?」
「ん?髪」
「……黒でも充分かいらしいと思うんやけど」
「染めたいの」
「なんですの急に。俺が染めたときはブーブー言っとったくせに」
「だってあれは廉造が…」
「俺が、なん?」
「な、なんでもあらへん!」
なんですのー、と膨れる廉造を無視して読んでいた雑誌の次のページをめくる。オーソドックスな茶髪だったり少し赤みがかっていたりと、その雑誌の女の子たちのふわふわした髪を見比べる。
「ねー、このページだったらどの色がええと思う?」
「黒」
「…このページ言うてるやんか」
「あ、この子かいらしい」
さっきの会話から機嫌が悪くなったのか廉造はそっけなくて、何色がいいかと聞いても黒、としか答えず雑誌のどの子が可愛いだとかそんなことばっかり言っている。
「……れんぞーのばか」
「え」
「もうやだ、わかれる」
「え、え、なしてそないなこと言うん。てかなんで泣いて、え、え?」
取り乱す廉造なんて気にも留めず、私はボロボロとだらしなく涙をこぼし続ける。廉造の馬鹿。アホ。タラシ。イケメン。坊について東京に行くと決めた日、坊も廉造も髪を染めた。中学の頃から女の子が大好きだった廉造はタラシのクセにそりゃあモテてモテて。ほんまに好きなんは名前だけやー。なんて調子のいいことを言っていても不安なんて拭えるわけなくて、何回も何回も廉造に隠れて泣いた。髪を染めようと思ったのだって、ピンク頭の彼の横に並んでも浮かない色にしたかったからなわけで。鮮やかなピンクと地味な黒じゃ釣り合わない。だから、とそう思っていたが、どうやら意味はなかったらしい。
「な、なして泣いとるん…」
「わたしの、ことなんか…っ、どうでもいい、くせ…っ、に…」
「そないなことあらへんて」
「黒…と、ピンクじゃ…釣り合わへんやんか…っ」
「どういうこっちゃ…」
「東京は、かわええ子ばっかやし…っ、廉造だって、出雲ちゃん、出雲ちゃんて…!わたしやなくても、ええんやろ…?」
嫌われたくなくて今まで一回も言ったことのなかった本音を、涙と一緒に吐き出した。ああもう終わった。めんどくさい女だと思われたに違いない。どうにでもなれと自暴自棄になりつつも、廉造が次に何を言うのかが気になって仕方なかった。ああもうほんとやだ好き。大好き。
「それはこっちの台詞や!」
「………は…、?」
「東京きてからなんやいきなり化粧しだしたり、髪染めたい言い出したり…、スカートやって短いし!」
「…れ、廉造…?」
「クラスに俺よりかっこええヤツはいないにしろ、なんや最近は奥村先生ともよう仲良くしてるようやし…、奥村先生イケメンさんやん!俺負けるやん!」
「…………」
「…………めっちゃ好き」
「ほんま…?」
「前から言うとったやん」
「だって廉造チャラチャラしとるから信用できひん…」
「…ええー…、傷つく」
「廉造、好き」
「知っとる」
君に似合う色になりたい title by 自慰
(髪染めんのやめてや)(えー…)(それ以上かいらしなられたら心配やねん)(うっさいチャラ男)(照れてるとこもかいらしいなあ…)