世界に絶望して消えてしまいたいと歌うヤツがいた。だけどそいつには歌がある。それが生きる意味じゃないかと言いたくなった。だってそれだけで充分だろう?


「いいなあ、それ」

「三味線のことか?」

「うん。音色が好き」

「一曲、弾いてやろうか」

「いいの?」

「ああ」


なんだか今日の晋助はやたらと機嫌がいい。春雨とかいう宇宙海賊との取り引きが上手くいったのだろうか、それとも敵対していた攘夷精力を押さえることに成功したのか、それとも、それとも…


「万斉は?」

「今日は来ねェだろうよ」

「えー、晋助と万斉のコラボが聞きたかったのに」

「……」

「晋助?」

「アイツは銀時が気に入ったらしい」

「へえ、変なの」

「ククッ、変だよなァ?」

「死んだ魚みたいな目したニートなのに」


大分前に晋助は銀時のことを牙を無くした獣だと言った。確かに偶然街で出くわした彼は、戦場にいたころのようなあの威圧的なオーラも鋭い目も無くしてしまっていて、ひどくがっかりしたのを覚えている。あれ、なんで私はがっかりしたんだろうか。


「どうやらまだ全部を捨てた訳じゃねェらしい」

「へえ、だから晋助機嫌いいんだ」

「あァ?」

「なんでもなーい」


なんだ、自覚がある訳じゃなかったのか。普段とは明らかに違う雰囲気を纏う彼に苦笑しながら、鼻歌を口ずさむ。何故だか私まで気分が良くなってくるようだった。酒がまわってきたせいかな。


「その歌、毎日歌ってるよな」

「え、ほんと?」

「弾いてやろうか」

「弾けるの」

「誰かさんにさんざん聞かされてっからなァ」


やっぱり今日の晋助は機嫌がいい。なんだその笑顔。この男のこんな顔、一体いつぶりに見たんだろうか。三味線から奏でられる音色に合わせてその歌の歌詞を口ずさむ。空っぽ人間がミュージシャンに嫉妬する、そんなくだらない歌。


「あー…、刀振り回したい。血が見たい。むしろ浴びたい。気失うまで暴れたい」

「ククッ、狂気じみてんなァ」

「うっさい変態」

「ハッ、どっちが」


晋助の機嫌が良くなるのは取り引きが上手くいった時だったっけ?いい酒が手に入った時じゃなかったっけ?銀時はあんな優しい目をしていたっけ?周りにあんなたくさんの人がいたっけ?鬼とか呼ばれてなかったっけ?あれ?あれ?あれ?

僕もそこへ連れてって

みんなみんな変わり行く中で、私だけが捕われたまま。

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