現在進行形で目の前で繰り広げられる現実に思考がついて行かず、バクバクとうるさい心臓を抑えたまま片手で横にいる坊の服をぎゅうと掴んだ。坊の必死に叫ぶ声が鼓膜を揺らす。
燐の双子の弟である奥村先生から彼がサタンの落胤であると伝えられた時、ざわつく塾生の中で奥村先生だけが嫌に落ち着いていた。まるで他人事のようにそれを話す彼は、燐に対してどんな思いで今までを生きてきたのだろうか。
「なんでや…、」
「坊?」
「聖十字騎士團はエクソシズムに精通した神聖な学び舎とちがうんか…、なんでサタンの子供なんか…」
「でも、燐は…、サタン倒すて…」
「なんや、志摩だけやのうてお前までほだされたんか」
「そんなんちゃうけど…、でも燐は友達やんか…!」
「ハッ、向こうはそんなん思ってないかもしれへんのにか」
「……坊は、燐がそない器用なこと出来るようなヤツやと思うとるんですか」
「せやかて…、俺やて誓ったんや!サタン倒して寺を立て直すて…、誓ったんや…!」
坊は俯きながら拳を震わせた。その震えが怒りからくるものなのか、戸惑いからくるものなのかは私にはわからなかったが、坊の心が揺れていることだけは確かだった。
「失礼やけど…、坊は和尚がなんであないに旅館に寄り付かんで騎士團にも入らないのかわかりますか」
「…あないな生臭坊主が考えてることなんか知るか。俺はアイツみたいにはならん!」
「それと一緒です」
「は、」
「燐だって、父親の考えてることもやろうとしてることもなんも知らんのですよ」
「……」
「燐の気持ち、いっちゃんわかるのは坊でしょう…?」
「……、お前に言われなくてもそんくらい気づいとったわアホ」
「!」
「ありがとな」
それだけ言うと、坊は旅館の方向に走り出した。
夢を夢で終わらせたくないから僕らは前に進むんでしょう title 自慰