「銀時のハゲ」

「は?」


突然なにを言い出したのかと名前の方に振り向こうとしたら、俺の腰に細い腕が巻き付いてきた。背中には額の感触がある。


「はげ、ばか」

「……、意味わかんねえ」

「もうさー、なんなのまじ」

「いやお前がなんなの」

「てんぱー」

「うっせ、その口二度と開けないようにしてやろうか」

「は、してみろし」


口では悪態をつきながらも背中にある額はグリグリと強く押し付けられた。ちょ、やめろ、くすぐってえ。


「銀ちゃんの、はーげ」

(意味わかんねえ…)


いくら思考を巡らせても彼女の一連のこの行動がよくわからなかったので、とりあえずこのまま放っておくことにした。ちくしょう背中があちい。クーラーをつけているにも関わらず、彼女の額と俺の背中の接合部の温度はどんどん上昇していく。回された腕の温度だって不快に思うくらいに熱かった。


「名前ちゃん、流石に暑苦しいっていうか〜…」

「……、予備校行きたくない」


その言葉を聞いて頭の中にあったパズルのピースが綺麗にうまっていった。チラリと壁にかけてある時計に目をやる。あと15分と38秒。そのわずかな時間がたてば彼女は俺の家を出て、クーラーのガンガンにきいた予備校の教室の机に長時間座っていなければならなくなるのだ。


「ぶは…っ!」

「…なに笑ってんの」

「甘え方、下手くそすぎんだろ」

「うるさいなー…、あー、あと10分…」

「何時におわんの」

「なにが?」

「オベンキョー」

「やっな言い方〜…いいよねえ、推薦ほぼ確定のやつは」

「バーカ、こーゆうところに普段の行いが出んだよ」

「こんな天パが頭良いとか世の中おわってる。神様は不平等だ」

「うっせ!天パは関係ねーだろうが!…で、何時」

「んー、今日は22時とか」

「迎え行く」

「え、いいよ」

「俺が行くっつってんだからいいんだよ」

「うわあ銀ちゃん男前」

「……、だから頑張れよ」

「ん、ありがと。」


行ってきます、ふわりと笑いながらそう言って彼女は部屋を出ていった。一人残されたその場所に残る、柔らかな残り香がひどく愛おしかった。

15分38秒前の微睡み

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