※高緑♀で緑間女体化につきご注意ください









 緑間は、石橋を叩きすぎる女性だ。
 警戒心が強いのか、男との会話が長続きしない。そもそも、異性との接触を好まない。
 初めて出会ったときもそうだ。高校進学後、帝光中のマネージャーだったと記憶している彼女を見かけて「バスケ部入るんでしょ?よろしく」と話しかけたとき、返事がなかった。直後に、彼女が手の中に納めていたセロテープに目が向き、それは何だと問いかければ「ラッキーアイテムのセロテープなのだよ」と素っ気ない答えを受け、次はその口調に笑ってしまったために特に彼女の反応が気にならなかったが、あの時の緑間は、自分――異性との接触を避けようとしていた。
 今はもう、二人そろってコンビのようなもので、緑間の警戒は全くなくなっている。自分以外の男に対するそれに、変わりはないようだが。
 自分にだけ、緑間は心を許している。そうされて勘違いしない男がいるだろうか?
 緑間に恋心を抱いたのは、そんな彼女の態度が一番の要因だった。
 彼女なら、彼女となら沿い遂げられる。そう思って緑間に一世一代の告白をしたとき、返ってきた答えはNoだった。
「は?」
 自意識過剰ではある。必ず肯定が返されるとばかり信じていた。
 夕暮れの教室、前後に座って、緑間の手元に並べられた美しい字に、クラス日誌が彩られてゆく。沈黙の度に文字が続いた。
「真ちゃん、今、何て?」
 目の前まで緑間の好意がぶら下げられていたというのに、これである。情けないことは百も承知で問いかけた。緑間がどうして断るのか、理由が見当たらなかった。
 緑間は、ふいに言葉を詰まらせる。
「お前とは付き合えない。そう言ったのだよ」
 日誌に滑らせていたペンを取め、先程も聞いた言葉を繰り返す。どこかためらいを持ったペンを持て余す緑間の手に、違和感を覚えた。
「どうして」
 彼女の瞼が震える。どうしてもだ、と物語っているそれだったが、緑間を見つめ続けた。視線を振り払うように頭を振る緑間と一瞬目が合い、緑間は動きを止めてしまう。唇を震わせて、観念したように、ぽつぽつと話し始めた。
「男女の縁は、些末なことで断ち切れてしまうのだと、よく聞くのだよ」
「些末なこと?」
「痴情のもつれが良い例だ」
 痴情のもつれ。なんていう言葉を、緑間の口から聞く日が来ようとは、思ってもいなかった。緑間はてっきり男女の交わりに関して疎いと思っていたので、そんなことを心配していようとは欠片も思っていなかったのだ。そもそも、交際を始める前から、そんな不安を持つのもおかしな話だ。
 と、考えたところで、そういえば緑間は、今まで誰かとの交際をしたことがないらしいことを思い出す。
 真ちゃん美人だからモテるっしょ、と問いかけた時。赤面しながら、彼女は、男女交際なんてしたことがないのだと言った。
「ただの友人関係であれば滅多に壊れることはないだろうが、異性として交際を始めれば話は別だ。……どうしてそこまで、恋人という関係に拘るのだよ。友人であっても、隣にいることはできるのに」
 寂しげに、軽く俯いた緑間が、何度も何度も瞬きをしている。零れそうな睫毛を見て、真ちゃん、と呼んだ。
「真ちゃん、俺はね、真ちゃんに触ったり、抱きしめたり、キスしたい」
 途端に緑間は頬を染める。
「それ、は」
 色のある話に疎いためだろう、緑間は更に深く俯いて、肩のあたりまで伸びた髪が白い肌を隠した。
 返事が途絶える。彼女の唇が、桃色に光って、まぶしい。
「それって、友達同士でしていいことなの」
 緑間は下げていた顔を勢いよく上げた。ばさりと髪が揺れ、唇が震えている。思わず口元が緩んだ。
 揺れている。緑間の心が。目を見開き、頬を染め、耳を染め、瞳を潤ませている緑間の思考が。
「真ちゃん」
 そうして彼女を押してやれば、俺に恋をするその心なんて、すぐに。



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