新しいソフトウェアとしてインストールされた日々也は、中々他人に寄りつこうとしなかった。外見に違わず、プライドが高いのだろう。サイケがいくら人懐こく日々也に近寄っても、冷たくあしらうだけだった。
 正直なところ、プライドが高くて可愛げのない奴は嫌いだ。そもそも男に可愛い、と思うように考える思考が、既におかしい。俺は女性と関係を持ちたい健全な男だ筈だ。
 しかし、なんとなく放っておけずに、日々也との積極を毎日のように試みている。臨也から、お前は日々也とペアになるようにしたのだ、と言われた頃から、そうせずにはいられなかった。恐らくこれは、恋人同士でもないのに「お似合いだよ」と言われた時、つい相手を意識してしまうのと同じだ。
 いつだったか。
 日々也が泣きながらディスプレイ越しに臨也と会話していたのを、よく覚えている。日々也のフォルダへの訪問を繰り返し、数日のことだ。
 日々也は臨也に何かを訴えていて、臨也は優しげな声色で何かを言う。デリカシーが無いと思いながらも盗み見ていた。
 臨也はそれに気付いていたらしく後に「皆に馴染めない日々也が悩んでいたんだ」と説明していたが、真意は定かでない。



 本当かどうかも分からないのに、その一言で動いてしまう俺は安直だ。女性が悩んでいる時に手を思わず差し伸べる、しかしそれよりもずっと激しい感情だった。
 このままでは、と日々也のフォルダに飛び込んで、思いつめるような表情の彼に、胸がきりりと痛む。
「なに、勝手に入ってきているんだ」
 普段もこうして咎めるような言い草はするものの、いつもと違い慌てている様子は、まるで泣き顔を隠しているようにも見えた。それに胸が温かくなったのは秘密だが。
 臨也の言葉を考えると、全て照れ隠しをしているようにも見える。
「日々也。俺がお前に、ずっと付き添ってやるからな」
 そっと手を握り、跪く。
 我ながら幼稚な口説き文句だ。日々也は目をくりくりとさせている。金色のそれが零れそうだった。
「……それは、僕の飼い犬になってくれる、ということか?」
 今度は俺が目を丸くする番だ。
 添い遂げる、といって、真っ先にペットが思い浮かぶのもどうかと思う。しかし、それが日々也の照れ隠しなのであろう。そんな表現しかできないのかもしれない。
 そんな病的な考えしかできない俺も俺だ。と、そんな考えも浮かばないほどに日々也のことだけで頭がいっぱいだった。
 照れ隠しだと思いながら、これからの二人の未来を想像して、期待しながら頷く。素直になれない日々也が愛しかった。
「それなら一つ、大切な話があるのだ」
 そっと手を握り返してきた細い指を眺めると、震えている。寂しかったと打ち明けてくれるのだろうか。
 妄想だけでも有頂天になり、歪みそうな顔をもごもごとさせた。
「お前がいつも持ち歩いている、大切にしていたフォルダを覗いたのだ。僕の住まいに忘れていったから。そしたら男女が裸で抱き合っていて、驚いて、データを消してしまって」
 いつも持ち歩いている。真っ先に思いついたのは他でもない毎晩のおかずだった。
「大切そうにしていたから、これは大変なことをしてしまったと思ったのだが……別にお前は飼い犬なのだから、そのぐらい許してくれるだろう?」
 それにしてもふしだらな物を見る犬なんだな、この下民が!
 思いつめた表情もこのことなのだったと、ようやく理解に至る。
 妙に納得したが後悔しか残っておらず、しかしただ「わん」と吠えることしかできなかった。


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