あまり感情を表に出す性格ではない。
 静雄と付き合いだして数カ月、既に手を繋ぐのにもキスにも慣れたものだが、やはり自分が静雄を愛しているのだと表現することは、どうしても苦手だった。元々その他大勢に対して発する筈だった感情の矛先を変えるのは、そう安易なものではない。
 そんな自分とは相対し、静雄はとにかく体中を使って愛情を表現する。好きだとか、愛してる、だとか、そんな甘言を耳にすることは殆ど無いに等しいが、静雄の行動からは愛情ばかりがあふれていた。まるで幼少から人と関わらなかったそれを埋めるように。
 しかし、そんな風に行動に示されるのは非常に苦手だ。瞼に落とされたキスがくすぐったく、身じろぎながら思う。かさついた唇の感触は慣れそうで慣れないものだった。
「シズちゃん、そろそろちょっと」
 こうしてから既に何分か経過していて、犬のように擦り寄られては無理に退けられるものも、簡単にはそうできない。子供のように膝へ顔を埋めてくる静雄の頭を撫でれば、服の裾を掴んでいた彼の手に力が込められた。
「黙ってろ」
 拒みきれないことを知ってそうしたのか、一つそうして言われてしまえば他に何も言いようがない。そろそろ動かなければ足が痺れるだろうに。立ち上がれない惨めな自分を想像しながらも、結局静雄を甘やかしてしまうのはそれほど惚れているということだ。
 ふわり、と静雄の髪からシャンプーの香りが漂う。自分のものと同じ匂いで、昨日から静雄が宿泊していた証だった。
 いっそのこと毎日こうして朝からまどろんでしまいたい。思うものの、互いに今の場所から離れるのは恋しい。二人が一つの屋根の下で暮らすには、まだどちらも若すぎた。大事なものだって多すぎる。しかし、自分はそれを全て捨ててもいいな、と思う。何より静雄の顔が見れるだけでも構わないから。それも本人に言えた試しはないが。
 こうして感情を押し殺してしまうから今までも何度か衝突を繰り返している。というのに、いつまでも飽きずにひた隠しにしている。我ながら意地を張り過ぎだとも思うし、恥じ過ぎだ。
 だが、そんなことを言わなくたって今は構わないのだ。静雄はこうして膝にすり寄ってきて、こちらもまた、甘んじて受け入れている。そんな静雄が好きな自分がいて、行為に気付いてくれる静雄がいる。感情を曝け出さなくともそれで十分なのだ。わかってくれているのだから。
 しかしいつまでもそうしているのは流石に気が引ける。何より嫌だった。口約束を信用する訳でもないが、互いに愛しているのだと言ってしまわなければ二人でいられないような気がする。それを言うには、正直時期尚早な気もするが。
 だから思うのだ。あと少し大丈夫だ。もう少しだけ、互いに背負う者や好きなものが減ったその時、その分の行為を今目の前にいる相手に投げつけるようにすればいいのだ、と。
 大切なものが無くなっていって、そして手が皺くちゃになってしまったときで良い。足腰立たなくなって、髪の毛が白く染まったころで構わない。いつか、自分の人差し指に通されたリングが、薬指に場所を移してくれていれば。



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -