親の願いをいつも耳にタコができるほど聞かされた。 優しい人でいてね。 嘘は吐かないでね。 変に意地を張らないでね。 呪いのようだ、と思ったが、臨也が何故そうやってしつこいほどに言い聞かせるのか、分かっていた。 彼には、心に想う人がいる。 しかし、その想い人――静雄は、臨也のことを憎んでいる。臨也が嘘を吐き続き、妙な虚勢を張った結果が要因だった。それを僕に言い聞かせたのは津軽であったが、静雄と会話する臨也の姿を見ると、何故そうなったのか、その類に疎い僕でも理解できる。目尻から涙をその白い頬に垂らす臨也は、お前はこうあってはいけないのだ、と言い聞かせた。同じ顔が同じ目に合うなんて笑いものだ、と冗談のように言っていた彼の顔は、冗談なんて言えないほどに傷付いていたが。 そんな臨也を見ている僕は、彼のように美しくなれるのなら、そうであっても構わないと。いかにも子供らしい考えしかできないものだった。 僕がいくら「そう思う」とデリックに言っても「確かに臨也は美しいが、お前には敵わないよ」という。 「デリックの目はどこかおかしいな」 僕のどこが美しいのだろう、と聞く。日々也の全部が綺麗なんだよと慈愛に満ちた目を向けるが、僕には理解し難いものだった。 「確かに見た目こそ同じだ。しかし、僕は」 「臨也よりも綺麗だよ」 僕はそう思わないのだよ。それが本心の他ならないのに、デリックは臨也を何も知らない。次々と彼の汚点を述べては、否定した。 「それはうわべだけのものだ。いくら彼が非行に走るからと言って、君は人の心を浅く見すぎている」 いくらなんでも言いすぎたか。ちら、とデリックの表情を窺うと、そうか、と笑うだけだった。 「臨也を絶対的に支持する訳ではないが――少なくとも悪意で出来た人間ではないよ」 「日々也は優しすぎるよ」 否定はしない。 しかし、それは臨也に何度も言われてきたことを行っているだけだった。かと言って、血も涙もないと言う訳ではないのだが。 「ただ、悪く言いすぎた俺も悪いとは思う」 ごめん。と素直な謝罪を耳にして、そうか、としか言わない。僕に謝られたところで、他に言葉が出てこなかった。直接臨也に言っていた訳でもないから、彼に謝ったところで何にもならないだろう。 「でも、たまには日々也も、自分のことに目を向けた方がいいんじゃないか」 臨也のことばかりで妬けるんだよ。と、彼は言う。それに答えろ、と言われても、彼の思うような答えは返せなかった。 「僕はただ自分のしたいことをしているだけだよ。もちろん、君に何も感情を抱かない、という訳ではないのだけれど。今はそうではないんだ」 何よりも、臨也の幸せを願っていた。恋でも愛でもないとは思っている。ただ、彼から俺が生まれ落ちたことによる情があるのだ。そして、それを理由に、忙しない振りをしていた。 「思うと、僕は優しい人間にはなれないのかもしれないな」 デリックの愛から逃げている。 「デリックの答えには、暫く返せそうにないよ」 本当は、臨也のようにはなりたくないと。どこかで思ってしまっているのかもしれなかった。 「最初から与えて貰えないと思えば、与えることだけに満足してしまうことだから」 それ自体が虚勢を張り嘘をついていることだと、僕はまだ知らない。 |