※間接的ではありますが特殊な表現(暴力)を含みます。閲覧は自己責任でお願いいたします






 何事においても、美しいものが好きだ。
 自然に満ち満ちた風景。丁寧に美しく削られた、左手の爪の先。ボールがネットをくぐり抜ける音。
 一番は高尾の両目だ。コートを捉える二つの瞳。黒く丸く、そして鋭いそれは何物にも代えがたい美しさだった。
 果たしてあれを手に入れられたらどんなに幸せだろうと、幾度となく思う。思うだけだ。
 その高尾の目の右側に眼帯が当てられるようになったのは、ウインターカップが終わり、少し経ってからのことだ。黒の双眸が見られない。部員がこぞって高尾にどうしたのだと問い掛けるが、彼は「ただのものもらいだ」と笑う。
 普段は存在するものとしてそこにある筈の黒の瞳が消えた時、言い知れぬ物を覚えた。テーピングに皺が出来た時とも違う、シュートの弧が歪んだ時とも違う、恐怖にも似たそれを、どうにも忘れることができない。
 

 左目だけでは意味がないのだ。だというのに、もう彼の右目は光を映していないのだという。それならどうすればいいのだろう。
 右の目が無くなったのなら、左の目だって奪ってしまえばいいのだ。自分の物にしてしまえばいいのだ。そんな黒いものばかりを考えた。考えて考えて、そして欲しくなった。右目が知らぬ何かに奪われてしまったのだから。左目だけは、知らない誰かに奪われないように。
 高尾の左目が欲しくなった。


 高尾の両目が消えたのは、その次の日のことである。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -