※WC後捏造






 中学時代。一度だけ、赤司に思いの丈を伝えたことがある。
 夕陽が赤く空を染めて、赤司の髪や瞳や体が、溶け込んでしまいそうな日暮れだった。
 好きだよ、と、とてもとても簡潔に伝えた時。赤司は、とても簡単で、難しい答えを出した。
「敦にはまだ早過ぎる」
 それは、恋愛をするのが早いということだったのか、はたまた想いを告げるのが早いということだったのか。良く分からない。自分としては、一年以上秘めていた想いだったし、恋愛だって、クラスメイトやチームメイトの間ではごく自然なことだったから、何ら問題ないと判断していた。男同士だから早いや遅いがあるのだろうか、とも思ったが、男同士なら、何がいけないのだろう。
 夕日に溶けた赤司の目を見ながら、頭の中でぐるぐると考えた。悩んだ末に「なんで」と問い掛けた時、眉を情けなく傾けた彼の顔を、鮮烈に覚えている。
 あの時、寸でのところまで現れて、消えてしまった答えは、未だにわかっていない。



 洛山が誠凛に負け、赤司が敗北を知ったあの日から、彼の口からよく『大我』の二文字が飛び出すようになった。
 メールをすれば誠凛の話を。電話をすれば、黒子の話を。直接会えば火神の話を。どんな形で会話が始まろうとも、行き着く先は何時だってあの男の名前だった。
 始めは、きっと赤司に敗北を与えた相手を、敬愛しているのだろうと思った。息をするのと同じように勝ち続ける赤司にとって、彼は初めて赤司を殺した人間だったから。
 それがどうやら違うようだと気付いたのは、二度目のインターハイで、赤司と再会した時だ。
 その時に東京から進出したのは誠凛で、赤司はそのことを、何度も、絶え間なく語った。
 大我のシュートが。大我のダンクが。大我の跳躍が。
 インターハイの会場、コートに立つ火神の姿を見ながら、目を細めて猫の様に笑い、赤司は言う。敬愛とも憧れとも違う、自分が赤司に向けるのと、同じような瞳で。
 火神に慕情を抱くその姿を見て、焦燥に駆られた。腸が煮え繰り返るようだった。
 赤司が愛情を注いでいたのは、ずっと、キセキと呼ばれた四人と一人だけだったのに、その全てが火神に奪われてしまうようで。
「赤ちんは、俺たちのこと、ちゃんと好き?」
 苦し紛れにようやっと出た問いは、まるで子供の駄々と似た様な声色で発せられた。
 本当なら、キセキ達ではなく、ただ一人、自分の事だけを問いたかった。そうしなかったのは、それを聞いた時の答えが想像できず、また、あの日のあの時の様に、情けなく歪んだ赤司の顔を見てしまいそうだったからだ。それが怖かった。
「好きだよ」
 あの時告げた自分の好きとは違う声色にも、恐怖を抱いたけれど。
 欲しいのは、そんな慈しむような好きではなかったのに。



 夕陽の眩しかったあの日、赤司は「まだ早い」と言った。自分にとっては赤司への愛情が遅いだとか早いだとかを判断するのが必要ないくらいに赤司を好きだったのに、彼は「早過ぎる」と言った。
 視界に入るものを一身に受け止めて、反射させる赤の瞳を好きだと思うのに、時間なんて関係あるだろうか。言い返しこそしなかったが、心の底では意地になった。
 あの、早過ぎる、と言った後。眉を傾けた彼は、また念を押すように「敦には早過ぎる」と繰り返した。
 今思えば、彼にとって、恋を考える時間が足りなかったのかもしれない。だから早過ぎると繰り返したのだろうか。自分の持っている愛情がどんなものかを推し量れなくて、だから早いと再三口にしたのだろう。
 火神に殺されて、漸く赤司はそれを理解したのだ。
 赤司が求めていたのは、彼を突き落してくれる男だった。しかし、どうしたって自分は彼を殺せない。
 だから、彼はまた、インターハイで火神に殺されるのを待っている。じっと息を潜めて、燃えるような彼の中へ、落ちていくのを待っている。
 それならどうか、彼の身を焦がすのは火神であったとしても、受け止めるのは俺であって。




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