こちら(青黄)の作品とリンクしていますが、本作品単体でも問題ありません。年齢操作を含みますのでご注意ください








 久々に元帝光中バスケ部のメンバーと火神、七人で集まろうと提案してきたのは、黒子だった。多少の雑談を交えながら聞いたところによると、数日前に偶然黄瀬と再会し、キセキのメンバーと会いたい、なんて話題になったらしい。
 確かに学生時代のことを思うと懐かしく、仕事を休んででも行きたい気持ちがある。スケジュール帳を見て、丁度何も予定が無いことを確認した。黒子に参加の旨を伝えようとした時、言葉に詰まる。浮かんだのは、学生時代、特に自分を慕っていた、同窓生の姿だった。
 仕事が入っているから遠慮しておく、という言葉は、殆ど無意識のうちに告げたのだと思う。残念そうな黒子の声に、罪悪感一つ感じさせないほど胸中を埋め尽くしていたのは、紫原だった。



 彼と一番最後に会ったのは、高校生活で最後の大会となる、ウインターカップ終了後だ。
 あまりにも離れた土地で暮らしているため、会えるのはここぐらいだから。そう言って誘ったのは、こちらだ。部活に関与しないプライベートで個人を誘うのは、前にも後にもそれだけだったと思う。中学時代は、互いに何を言わずとも、二人でいることが多かったから。主に紫原がついてきてくれていただけなのだが。
 中学時代に見たものとは少し違う東京の街を、どこへ行く訳でもなく二人で歩いていた。互いに無言で、時々、思い出したように紫原が駄菓子を頬張った。
 時計は夜中の十二時を回っている。それだというのに、街の明かりに消える様子はない。寧ろ騒がしくなる一方だ。
 暫く歩きまわっていると、昼の試合での疲れもあり、足がだるくなる。そろそろ座って休みたいと思ったところに、マジバが建っていた。
 紫原に許可を得る訳もなく、店内へ入る。カウンターへ向かってバニラシェイクを頼むと、紫原も続いて隣のカウンターから数品注文していた。
 バニラシェイクを受け取り、窓際の席に着く。遅れて席に着いた紫原のトレーには、小さいパンケーキやポテトが、ぱっと見ただけでも五、六個ずつ並んでいた。パンケーキ用に使うらしい、プラスチック製のフォークは二本ある。有無を言わさずそれを受け取らされ、紫原のプレートはテーブルの中央に置かれた。
 紫原がポテトを数本手にとって口の中に放り込むのを見た後、同じものを一本だけ口内に含む。マジバの物を食べるのはこれで何度目かになるが、ファストフードの味は、どうしても好きになれなかった。おいしい、と漏らす紫原の前で、そんなことはとても言えないが。
 バニラシェイクが残り二口ほどになったところで、今日一日、聞くべきかそうでないか判断しかねていたことが頭を掠めた。紫原はポテトを食べ終えて、パンケーキに齧り付いている。
「敦は、大学のことを何か考えていたりするのか?」
 今まで一言も言葉を交わさなかったせいか、自分の声だけが浮いて聞こえた。敦はパンケーキを何度か咀嚼する。その間に何か考えていたようだったが、まとまらなかったらしい。唸った後に、少しずつ話し始める。
「勉強は、したくないけど……。でも行った方がいいって、親に言われてるし」
 残りのシェイクを飲み干す。紫原もパンケーキを完食した。しかし、まだ足がだるいという理由で自分を納得させ、ストローを弄びながら、腰を下ろしたままでいる。
「じゃあ、スポーツ推薦とか?」
「が、いいのかなあ」
 火神との試合に負けてから、バスケへ好意を向けるようになった紫原なら、今までと同じように大学でスポーツ漬けになったとしても、苦ではないだろう。不服そうな表情をする紫原でありながら、声には満更でもなさそうなものが入り混じっていた。進学先はともかく、紫原の受験方法は決まったに違いない。
「僕は一般受験にしようと思ってるんだ。敦と同じ大学に行くよ」
 殆ど決まったことのように言うのは、紫原の否定を考えてもいないからだ。過去、一度だって紫原から拒む言葉を聞いたことが無い。問いかける自分が馬鹿だと思うほどに肯定しかしなかった紫原に、こうした言い方をする癖がついてしまったのは、何時からだったか。
「俺は、赤ちんとは違う所に行きたい」
 だから、そうやって紫原から否定をされた時、それは否定というよりも、拒絶のように感じられた。
「……そうだね」
 どうして、と聞かなかったのは、理由を聞くのが恐ろしかったのかもしれない。もしも同じ場所へ行くことだけでなく、自分の存在さえも否定されてしまったら。その時はどうすればいいのだろう。
 表情一つ変えないよう注意を払いながら、紫原を見る。眉尻が下がり、酷く申し訳なさそうな顔だった。そんな表情をするのであれば、何故否定したのか。
「いいの?」
 こんなにも動揺している自分が答えてしまったら、どんな言葉が溢れてしまうのかが恐ろしくて、口を開けなかった。できることなら、自分の意見に抵抗して紫原が望んだことを叶えてやりたいと思う。そもそも、同じ大学へ行こうと提案する自分が、子供じみているだけだ。
 それから店を出て、来た道を戻って、お互いの宿泊地へ帰るために背を向ける。紫原に答えを言うことも、言葉を交わすこともなかった。



 あれ以来、紫原には会っていない。会うことが恐ろしかった。同窓会に誘われようと、旧友から飲みに誘われようと、紫原からまた拒絶されてしまうのかもしれないと考え、足を運ばなかった。
 もし、紫原と再開してしまった時、自分はどんな顔をすればいいのか、思い出す度に考える。その度に、情けない顔ではなく、再会を喜ぶ顔を見せたいと思い、その光景を思い浮かべながら鏡を見ても、酷く歪んだ自分の顔が映るだけだった。




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