「あー……。辛くない、こともない」
「そう、ですか」
彩鈴ちゃんは、俺の曖昧な答えに静かに応えた。
どうせ、嘘をついても見透かされてしまうのだろう。
この真っ直ぐな瞳に。
なら、本音を隠す必要もない。
「でもね、やっぱり大切なんだよ」
「……大切?」
「友達が、みんなでいる時間が、大切なんだ。だから、壊したくないとも思うんだ」
じっと俺を見る彩鈴ちゃんに、俺は笑って見せた。
「多分、君と同じくね」
「……!」
彩鈴ちゃんは、大きな目をさらに見開いて、ぱちくりさせた。
……やっぱり。
「……あなたも、異能者なんですか?」
「まさか。俺はただの──」
「かーずまぁ!バニラしか残ってなかったぁ!バニラねー!」
言いかけたところで、桃の声がここまで届いた。
どうやら桃も由希ちゃんも全員ぶん買えたみたいで、こちらに向かってくるところだった。
「ただの?」
「お供そのいち」
そう言って、俺はまた笑った。
彩鈴ちゃんは、意味がわからなそうに小首をかしげた。
「あっちゃん!あっちゃんのぶんも買ってきたよ!チョコと苺どっちがいい?」
「由希さん。じゃあ私は苺で」
彩鈴ちゃんは由希ちゃんから苺のアイスを受けとると、こちらに向き直った。
「皆さん、本日はご迷惑をお掛けしてすみませんでした。私たちはこれで失礼します」
「えー!?もう帰っちゃうの!?ゆっきーもゆうくんもげんげんもありすちゃんも、またこの町に遊びに来てね!」
いつの間に打ち解けたんだろう。
社交的すぎる桃を見て、俺は苦笑した。
そうして、不思議な四人組は、俺らに手を振りながら歩いていった。
「アリスちゃん!あの人と何話してたの?」
「それは──」
彩鈴ちゃんは言いかけて、俺を見た。
バッチリ目があって、彼女は少し照れくさそうに目線をそらした。
「内緒です」
「えー!?教えてよ!」
俺はそんなやり取りを見ながら、笑みをこぼした。
自分は人の気持ちが視えるのに、自分の気持ちはひた隠しにする。
やっぱり不思議な女の子だと思った。
あの真っ直ぐな瞳で、彼女はこれから何を見るのだろう。
視えるもの、視えないもの。
俺らの中と、彼らの中にある絆は、どっちなんだろう。
そんなことを考えながら食べるアイスは、いつもより少し美味しかった。
-Fin-
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