「そうだ。観光なら俺案内するよ」
「じゃあ頼む」
「おっけおっけ!」
優羽が満面の笑みで答える。
「そうだ。名前なんていうの?」
「東堂源輝だ」
「じゃあげんげんかなー。あ、俺はね西野優羽っていうんだ。気軽に優羽って呼んでよ」
優羽が笑顔で言うが、源輝からすればげんげんというあだ名に疑問を持っているのだが。優羽本人は気にせず、軽く鼻歌を歌いながら前を歩く。
その際には、ダイアのストリートを案内する。どの店の料理が美味いか。このブティックは品揃えがいいとか。俺のお気に入りの店はここだなど。
源輝も優羽の教えた店の方を見て、興味はあるようだ。
「名産みたいなものはないのか?」
「名産か! そうだなあダイアではこれを食べなきゃっていうのはあるよ。チェドルさ」
名前を言ってから、優羽はあたりを見渡し、一つの店に目星をつけて、買ってくる。そしてそれを源輝に手渡した。
「はい! 定番の味を選んできたよ」
「ありがとう。……あぁ、アイスか」
「アイス…あぁ、スペードではそう言うんだってね!」
この世界は大陸ですべての都市はつながっているが、言葉や文化が違っていたりする。それは、それぞれ独立した都市だから。独自の文化を持って、成長してきたのだ。
実際に同じものでも、それぞれ言葉が違っていたりする。
「ダイアは食も有名だからな…。これも楽しみだった」
「えへへ、ありがとうー!」
源輝がチェドルを食すれば、小さく美味いと言葉をこぼし、優羽も笑みが浮かぶ。
二人で街を歩いていると、ざわざわと賑わう中、配られているチラシを貰った。チラシには綺麗な女の人を中心に鳩が飛んでいたり、猫が玉乗りをしている写真が映っている。
「移動サーカスみたいだ」
「"プリマドンナとして有名な絶世の歌姫がサーカスにやってくる"…」
観に行く? と優羽が問えば、源輝は少し考えてから首を縦に振る。チラシの開演時間を見ればもう少しという時間。
「チケット買ってくるから待ってて」
優羽はそういうと、くるり背を向けてチケット売り場に向かう。
どうやら人がたくさん集めっていたが、なんとかギリギリで入手は出来た。
2人は中へ入ると、明かりに照らされた中央を囲むようにして、沢山の人が座っていた。一度辺りを見回すと、優羽と同じような服装もパラパラと見かける。ということは、多方観光客なのだろう。
源輝も珍しいのか、周りを見渡す。
「珍しい?」
「あぁ。スペードにはこういったものは、全然ないからな」
へぇ、と優羽が言葉をこぼす。
優羽の考えるスペードは、警備が厳しく、キッチリとした都市。安心して過ごせる都市として有名である。ダイアが観光都市というのなら、スペードは暮らすための都市、という感じだろうか。
ただし、優羽はあまり住もうとは思えないようだ。息苦しい、そう感じてしまいそうだから。
「あ、はじまるね」
「あぁ…」
とりあえず考えるのは一旦やめてサーカスを楽しもう。そういえばサーカスを見るのなんてすごく久しぶりな気がする。小さい頃に一度みたきりだったっけ。ライオンが玉乗りしたりで楽しかったけど、鞭で叩かれたりして可哀想だなって思ったことも…。
なんて思いながらステージを眺める。
歓声があがった。
――華やかなサーカスの始まりだ。