「そ、そ、そ、」
「そんなバカなあああ!」
な、何これ何これどういうこと!?
体に強く吹き付ける風は、今の状況を嫌というほどはっきり表していた。
目の前に広がる大自然
目の高さに合う山
地の感覚がない足元
これってどう考えても……
「落ちてますよねええぇ!!??」
何でいろいろとレベル超えたお散歩しちゃってんの私!? 待て待て落ちつけ、どうして今こんな状況なのか、もう一度よく思い出せ。
そう。確か私はいつも通りに、部活が終わって夜練に向かうために学校を出て、それで…
きーんとした耳鳴りに襲われた。いや、今もなんだけどね、こうなる前にね、なったのよ。それで目の前が赤くなった気がして、それからべしゃりと音がした。
道路に飛び込んだ子供を助けるために、自分が飛び込んで自分が衝突、なんてお約束過ぎる出来事にあっけない死。
後ろに居た友人の止める声も無視して、私は飛び出していた。
そうだ、私車に引かれて死んだんだ。それで、もうあの世に行くんだなって、思って…。
「こうなってた…と」
冷静に思い出してるうちも、確実に地面との距離を縮めてる私。
「成程、納得納得!」
はっはっはっ、と笑い声が響いた。いやー、空に響く声とはまさにこのことを言うのね。
「できるわけねぇええええ!!!!」
何現実逃避してんだ自分! あ、でも何となくそうしたくもなるよね、そうだよね、うんうん。
ああ、そんなことしている間にも確実に地面が近づいてきた。
何で一回死んでまた死ななきゃいけないわけ!? それともこれを乗り越えれれば、天国に行けるってやつですか!? そうなんですか!?
どうしようどうしようどうしよう!
近づくことによって、おそらく私が落ちるであろう場所が少しずつ見えてきた。
「…川っ!?」
いや、あれは…湖!? た、助かった!!
……ん? いや助かったのか?
この高さだよ?普通に…
「駄目じゃん!!」
ああ、もう地面はすぐそこだ。さすがにもう笑えないって!!
不意に涙が溢れてきた。
いきなり訳分かんないことになって、何でいきなりこんな状況。このまま私どうなっちゃうんだよ、やだやだやだ…怖い怖い怖い!!
車に突っ込んだ時には何も恐怖感なんて感じなかったのに、何で今更…! あの時は必死だったから、だけど今は十分時間がありすぎて、余計なことを考えてしまって…。
「……っ」
もう駄目だ…!
そう思って、私はこれからくるであろう痛みに目をきつく閉じた。
義兄さんごめんなさい。実は貴方の日本酒、間違えて飲んだのは私です。まさか未成年でお酒デビューするとは思ってなかったです。味はまだ子供の私には不味くて吹き出しました。おいくらか無駄にしました。でもコップに入れっぱなしで置いていくのは、どうかと…。
姉さんごめんなさい。実はテストで赤点を取りました。初めての赤点…ってわけでもなかったりします。実はほぼオールに近い赤ばかりです。特に英語と数学なんてこの世から無くなってしまえばいいと思います。向こうに行ったら思いっきり叱ってください。
なんて、今更無くなっても困りますね。私関係ないもの。
もっとたくさん、大切な人達に伝えたいことはあるけれど、とりあえず、ごめんなさいを言おうと思います。
親不孝な子供でごめんなさい。先にいって待ってます。
(ごめんなさい)(ごめんなさい)
あ、夢落ちもありかも。なーんて、