「そういえば、絵は完成したのか」
「絵?」
私が疑問げに首をかしげれば、前で運転している菊兄さんが呆れたように溜息を吐いた。
「時羽学園の課題だよ」
「時羽学園…課題…」
なんの話だろうか。
私が混乱していれば、実が話しかけてくる。
『ごめん! 今は大丈夫って言っておいて!』
『え、あ、うん…!』
実に言われたとおり、大丈夫だと笑いながら言えば、それなら良いといって、再び運転に集中し始める。
小さく息を吐いて、実に説明を求める。
『時羽学園って?』
『うーんと、話すと長くなるんだけど…』
時羽学園。
私立の小中高一貫学校。また大学、専門学校も有るとか。途中からの編入も可。一般的には運動が有名。学力は普通。
小学からの一貫校って…なんか、信じられない。元の世界でも滅多に見ることのない一貫校だし…。
けれど、本当は異能者の人達に力を教える場所なんだそうだ。けど、能力の使えない一般人も居る。その人たちは、異能者などを理解し、普通に過ごしている。
異能者の為の専門の授業もあって、毎週火曜日は異能者が委員会で集まり、能力を使う練習がてら、バトルをしている。怖い学校だなあ!!
生徒数は普通の学校だが、とっても広い敷地に、それをぐるりと高い壁で覆われている。だから生徒も安全! 因みに土地代の関係で田舎にあるとか。
1年の途中から、学科別の授業も開始されるが、クラスは普通に分けられている。
『その時羽学園は、このグレアって国にある時羽依頼所ってところと関係性があるんだ』
『ほうほう…』
『菊兄さんはその時羽の卒業生で、依頼所で勤めてる』
結構エリートなんだよ。
なんて言われて、ちらっと菊兄さんを見てみる。
「どうした」
「いや、なんでもない」
そういえば、向こうの菊兄さんもエリートだった気がする…。どこの世界でもエリートはエリートなのかな…。ちょっと悲しくなってきたぞ。
『それで、さっきの課題ってやつは?』
『俺は一応異能者らしいから、時羽の生徒なんだ。だけど理由があってこっちで住んでる。だから、通信制として、課題を送ってるんだ』
『成程ね…』
ってことは、私が実の課題やらなきゃダメってこと!?
一気に顔が青くなった。ちくしょう! なんてことだ!!
『でも、なんで実はこっちで暮らしてるの?』
『さぁ? 誰も教えてくれないんだもん』
うーん……皆過保護なのかなあ……。
『実も絵書いたりするんだ?』
『うん、そうだよ。特技なんだ!』
『私と一緒だ。私美術部で、絵とか描くの好きで。あとは音楽とか料理とか』
『俺と同じじゃーん!』
『流石〜!』
軽くハイタッチしてみる。透けちゃうけど。
「お前何一人でニヤニヤしてんだ…」
「えっ!? に、ニヤニヤしてたかな!?」
「してた」
呆れるような声色で言われて、思わず空笑い。
「け、携帯新しいのもらえて嬉しいなーって…」
「現金な奴だな」
くつくつと軽く笑いながら、菊兄さんは言う。
大丈夫、菊兄さんともうまく接せる。大丈夫だ。