空色蜃気楼 | ナノ




 トス、と本を重ねる音がする。
 これで3冊目…。やっと、頑張ってやっとこれだけ…。あと7冊…! くそう、読書がここまで苦痛になる日が来るなんて…!
 そう思いながら4冊目に手を伸ばした瞬間、スっと目の前に手が出てきた。

『うわっ!』
『びっくりしすぎ』

 毎度脅かしやがって…。
 思わず実を睨みつければ、彼は口を開く。

『もう良いよ。それだけ読めば十分』

 そしてそのまま立ち上がらせられる。そしてそのまま導かれるように、私は本を素早く戻していき、図書館の外に連れられる。

『ちょっ、えっ!? まだ読み終わってないよ?』
『君に読ませる予定だったのは、上の3冊だけだ』
『じゃあ何であんな数…』
『その方が早く読み終わるだろ?』

 にっと実が笑みを見せてくる。くそう、まんまと策にハマったって訳だ。
 少し口を尖らせていれば、カオルに笑われたので、直ぐに顔を戻した。畜生…。

ドンッ

「あ、すみません…」

 しかし、人多いなあ…。東京くらいかな。
 そう思って少し眉間に皺を寄せながら、ぶつかった人がいた方向を向く。
 すると、相手は一瞬目を開いてから、私の腕をがしっと掴んだ。

「え……?」
「な、んで…?」

 え、ちょっと、待って。どういうこと?
 私が一人で混乱していれば、相手は私をガン見している。ええっと、本当になんだろう…。

 思わず立ち止まった私に、実がどうしたのかと問いてくる。私にも訳が分からないのさ…。

「どうかしました?」 

 私が問えば、相手はハッとしてから、私の方を見る。
 パッと見れば、琥珀色のカールされた、ふわふわな髪の毛。緑色の瞳がとてもきれいだ。あと髪の毛に花をつけてる。これ本物かな…なんて。まぁ簡単に言えば、可愛い女の子なんだけど…。でも、なんでそんな女の子に、腕を掴まれているのかな?

「君、もしかして…」

 彼女がそう呟いた瞬間、実が急に叫んだ。

『誠!! 早く彼女から離れて!』
『え? え?』

 どういうこと!? そう思っていれば、彼女の隣に実が来て、本当に必死な表情で離れれるように言ってくる。
 なんでそんな慌てて…。

 余計訳が分からない。

 混乱していれば、ドンッと脇から来た人に押される。

「うわっ!」

 急なことに驚くと、それと同時に腕が離れる。
 それを見て、実は一安心し、早く早くとジェスチャーする。だから、なんでそんな慌ててんの…。
 だいぶ人ごみに流され、ふとさっきの方を見ると、さっきの彼女はキョロキョロと周りを見回していた。

『誠! 走って!』

 実に急かされるように、彼女の死角となる方向へ走る。
 でも、いつもだったら全然気にしてなかったかもしれない。単なる人間違いか、なんかだったんじゃないかって。でも、今回はそうじゃなくて、本当に驚いてるような表情をされていた。
 まるで、死んだ人を見たような…。

「はあ、はっ…!」

 ん? 死んだ人?

 ま、まままままさか…。いや、でもそんなはずは…。でも、もし私の考えが合っているというのなら。

「ひっ…!」

 逃げなきゃ、いけない気がしてきた。
 人とぶつかり、人ごみをかき分けながら、さっきの彼女から逃げるように走る。

「はあ、はあ…。もう良いかな…」

 路地裏で膝に手をついて呼吸する。肺が痛い…。もともと苦手なのに、こんな全速で走ったからだ…。
 実が大丈夫かと声をかけてくる。私はそれに返事が出来ずにいた。思わず外なのに座り込む。
 だ、ダメだ…。やっぱり、長距離走るのは、無理だ…。
 ぜえはあと荒い呼吸をしていれば、実が心配そうに声をかけてくる。

『ごめん! そんなになるまで走らせて…! 体が強いわけではないのに…』
『いや、大丈夫。すぐ、収まる…』

 走りすぎて、軽い血の味みたいな感じするけど! 吐きそうだけど! 落ち着けば、直ぐに収まるだろう…。
 軽く頭を伏せて、呼吸を整えていれば、『あ、』と実が声をもらした。え、なに。どうしたの。
 顔を上げる気力がなかったため、伏せたままでいると、


「おい」
「うわっ!」

 急に腕を引っ張られ、体が無理やり起こされる。
 急のことに驚きで目を丸くし、横を向けば眉間にしわが寄っている、見慣れた男性が居た。

「こんな所で、何してんだお前は!」
「き、菊兄さん…」

 急のことに驚きで目を開いていれば、彼は険しい表情をした。

「お前、体が弱いくせに何してんだ」
「そ、そこまで、体弱くな」
「嘘つけ!」

 彼の大声に、少し体がすくむ。
 ひえええ…。なんか凄い過保護だよ…。確かに向こうでも、結構過保護だった気はするけど…!
 未だに呼吸が整わず、多分顔色が悪かったのだろう。菊兄さんは、一瞬恐怖感のある表情をしたが、直ぐに表情を戻す。そして自分の着ているコートを脱ぎ、私に着せる。

「え? え?」
「暴れんなよ」
「え? えぇ!?」

 そしてそのまま、抱え込むように抱っこした。目の前にいた実も、めっちゃ驚いた顔してる。そして慌てて私の方に隠れる。

「これなら大丈夫だろ。なんでお前は、そんなことになってたんだ」
「えっと…」

 貴方の義弟さんを殺した人が、義弟さんにそっくりな私を見て、びっくりしてたんで、慌てて逃げました。
 なんて死んでも言えん! いや! もう死んでるけど!
 私が黙っていると、彼はまだ話せないと勘違いしたのか、気にしないで足を進める。

「俺も家に帰る予定だったし、ちょうど良かったな」
「ありがとうございます…」

 彼の車であろう、そこに着けば、彼は器用に私を肩に乗せて、車の後部座席の扉を開ける。そしてまた抱っこにして、私をそこに座らせた。
 なんていうか、すっげえ過保護。実の兄妹じゃないのに、異常なほどじゃないかな。あ、こっちでは兄弟か。
 なんて思っていれば、彼は運転席に座り、車を発進させる。

「お前数日間、連絡も取れずに、行方不明扱いされてたんだって?」
「げっ…。誰から…」
「カエデだよ。カエデが連絡よこしたんだ」

 で、どうしたんだ?
 彼にそう問われ、私はどうしようかと悩む…。しかし、しょうがない。

「ちょっと出かけてたんですけど、携帯壊しちゃって…」

 キツイかな。
 そう思って、少し冷や汗を垂らしながら彼を見れば、彼は少し安堵の表情をしていた。
 ……あぁ、そうか。彼は人を失うのが怖いんだった。こっちでは、私の所より、数割大きいんだ。

「じゃあ帰るついでに、携帯でも買いに行くか」
「えっ! そんな悪いです!」
「でも連絡取れないのは不便だろ。壊したのが悪い」

 うう、すみません…。本当は違うんです。なんて本当のことも言えずに、携帯(スマフォ)を買うことになったのだけれど。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -