空色蜃気楼 | ナノ





『出身国は?』
「日本」
『滞在国は?』
「日本」
『ふむ…』

 私が説明を終えれば、彼は考えているようで、顎に指をおいていた。

『つまり、本当だったらここに居るはずではないんだよね?』
「うん…」
『それで、気がついたらここに居た、と』

 こくりと首を縦に振る。

『空間を移動した…? いや、まさかね』

 そんな高度な技術は持ってないと思う。

『ねえ、君が居たところってどんな所?』
「どうって、普通だと思うけど…」

 都会よりは田舎。人口もそこまで多いわけでもなく、かと言って少ないというわけでもなく。都会みたいに高層ビルはないけれど、不便ではない。電車も少ないけれど通ってる。でもそこに住んでいる人は皆良い人で、祭りもあって楽しくて…。そんな地元が、軽い自慢でもあった。
 あぁ、もう戻れないのか…。

「良いところだよ」
『……そっか』

 私が答えれば、彼は目を細める。
 私は軽く拳を握り直し、彼の方を見つめた。

「今度は、私が聞いていい?」
『出来る範囲ならね』

 彼は私の方を向きながら頷く。私は軽く震える口を開いた。

「ここは、どこですか?」

 私がそう問えば、風が私たちの髪を揺らした。
 そよそよと、見慣れた私の髪が視界に映る。それを視界に映しながら、私は実を見続ける。

『ここは“グレア”という国だ』
「何それ、聞いたことない」
『マジか…これくらいは知ってると思ったんだけど』

 首を勢いよく横に振る。だって私まだ高校2年だけど、こんな国の名前なんて聞いたことなんてない。地理にも載ってない、習ってない。世界各国の名前を全て覚えてるわけじゃない。けれど、こんな国の名前なんて聞いたことなんてない。

『君、本当に日本人?』
「日本人だよ! 現に日本語で喋ってんでしょうが!」
『だって、グレアなんて日本と関わりのある国じゃん?』

 習ってないの? と問われる。習ってねーよ!
 どんだけ私の脳みそフル回転させたって、絞ったって、そんな国名なんて出てきません! いや、グレアという言葉の意味は知ってるよ!? 確か眩しい光だよね。
 実が言うには、ここグレアという国は、現日本で一番交流のある国であるらしい。

「ねえ、今の年号って何?」
『平成』
「……いつからこの国と交流があった?」
『平成元年』

 おかしい、明らかにおかしい。私の生まれたのは平成なのだ。だったら知っているはず。
 私が頭を抱えていれば、ぼそっと実が口を開いた。

『……ねえ、パラレルワールドって知ってる?』
「は? えっと…聞いたことはあるけど、詳しくは…」

 私が少し間抜け面しながらそう言えば、彼は目線を横に反らしながら答える。

『俺も、少しかじった程度の知識だから、詳しくはわからないけど…。パラレルワールドは、ある世界…まあ時空だね。それから分岐し、それに並行して存在する別の世界(時空)を指す。並行世界、並行宇宙、並行時空と言ってもいい』

 そう言われてもチンプンカンプンだ。私が混乱していれば、彼が軽く例え話をしてくれた。
 例えば、架空戦記作品に見られるような、史実とはどこかが異なる「もう1つの歴史」を扱うフィクション。これも私達の知る世界から見れば、パラレルワールドだそうだ。
 簡単にまとめると、例えば某猫型ロボットの出る漫画のように、時を越えてとある出来事に関わるモノに影響をあたえて、それがないという世界が出来てしまった、とか。
 実の話を聞く感じだと…。

「まさか、私の住んでた所をパラレルワールドだと言いたいの?」
『……言いにくいけど、そういうことに…』
「ふっ、ふざけないで!」

 思わずカッとなって、声を上げてしまった。
 何が私の世界はパラレルワールドよ。私が暮らしてきた、今までの世界が別世界だというの!? じゃあ、何。今まで私が暮らしてきたところは、こっちの人から見れば、物語みたいな所だっていうわけ!?
 そんなわけない。私の世界が本当の世界なんだ。こっちの世界が物語なんだよ。こんな漫画みたいな、こんなの…。

「冗談言わないでよ。そんなバカみたいな、非科学的な…」
『ごめん、また混乱させて。でも、そんなことが起きる世界が、この世界の常識なんだ』

 今まで、そんなの漫画やアニメ、小説だけかと思ってた私には衝撃が強すぎた。駄目だ、こんなの簡単に受け入れられるわけがない。

『でも、ごめん。こうやって、ここにある草木は生きている。決して物語なんかじゃない』

 実にそう言われて、思わず周りを見渡した。

『俺だって、今は死んじゃった身だけど、2日前までは生きてた。例え君がこの世界の住人じゃなかったとしても、皆はこの世界で生きてるんだ』

 私はただ、彼の言葉を、聞くことしか出来なかった。そう、だよね。例えここが私の世界と違ったとしても、ここの世界は生きている。
 物語の紙の中だとしても、ここに居る人たちは生きている。
 私と同じなんだ。

「ごめんね。酷いこと言って」
『良いんだよ。逆に俺の話は現実味もなさすぎるしね。信じてくれて嬉しい』
「それしか今は信じられないからね」

 あははっと笑えば、彼も一緒に笑う。

「そうだ。実の家に連れて行ってよ」
『ん、良いよ! その方が色々説明できそうだね』

 私が立ち上がれば、実も私の横に歩いてくる。

「そういえば、実には兄弟とかいるの?」
『よく分かったね。義理の義兄、それと死んじゃったんだけど姉さんが居たよ』
「……え?」
『どうしたの?』
「いや、何でもない…」

 いや、まさかね…。

『誠は?』
「……今、実が言ったのと同じ…」

 長い沈黙が流れた。

『こ、ここまで同じって偶然にしちゃ、出来過ぎてない?』
「だよね……。因みに名前は?」
『姉は桜。義兄は菊だ。それと、その義兄の弟がカエデ』
「名前まで一緒かー…。でも、カエデは知らないなあ…」

 まぁ、そこまで一緒だったら気味が悪いけど。本当は、いつもの世界なんじゃないかって思ってしまいそう。
 でも、そのカエデって人が居るって事が、やっぱり異世界なんだと、思わせてくるような気がする。誰だからわからないけれど、ちょっとカエデさんに怒りが湧いてしまった。




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