生まれた時に体が弱い赤ちゃんは、男に女の名前、女に男の子名前を付けると、死神が混乱して連れて行かない、という言い伝えがあるらしい。
それに、男の子は女の子の。女の子は男の子の服を着せて育てると、丈夫に育つとも言われている。理由は名前と同じ。
現に私の『誠』という名前も、それに少し肖りがある様だ。それに、その…。幼いころの私も、若さ故っていうか…。やんちゃしてた時期も、うん…あったけど…。男女なんて言われてた時期もあったけど…。
『俺の家では、昔からそういう言い伝えがあって、昔そうやって育てられてきたんだ』
「そうだったんだ」
『今はもう一人称は俺だけど、小さい頃は私だったし、今の誠みたいな服も好きでよく着てた』
実(もう女男にしか見えない)が言うと、思わず私は言葉が詰まる。
なんだろう、私と状況が真逆っていうか…。
まあでも確かに、実ならどっちでも通じるし。
「でもまさか、自分と同じ見た目で、漢字は違うけど同じ名前なのに、性別だけは違うって、本当にビックリしたよ」
『俺もだよ』
さっきは胸触っちゃってごめんね? と私と同じ顔で謝ってくるもんだから、少し戸惑うけど、首を縦に振った。
『それより誠。一応、色々なことを君に説明しなくちゃいけないし、聞かなくちゃいけない』
「……うん」
遂に来たか。
私は少し身構えて、実の方を向く。
『名前は? あ、フルネームで』
「朝日誠」
『…苗字も同じなのか…』
「え、マジで…」
こんな偶然って起きるんだなあ…。同姓同名とはよく聞くが、ここまで何もかもが一緒だと、少し恐怖も出てくる。
『それで、君に聞きたいことがあるんだ』
「う、うん」
『誠は、異能者?』
「異能、者?」
何それ、私には到底理解できないような言葉だ。何の話だ、分からない。
私が混乱していれば、彼はびっくりした表情をして、頭をぐしゃぐしゃと頭を掻き、溜息を吐いた。えっと、吐きたいのはこっちなんだけど。
『異能者なんて、普通知ってない?』
「知らないよ! 何それ!」
『知ってるから、ここに来たんじゃないの?』
「しーりーまーせーんー!!」
私が軽く息を吐きながら言えば、彼は目を丸くしていた。
『本当に、知らないの?』
「知らないよ。何それ、漫画の世界かなんですか」
私が軽く冷めた目でいれば、彼との睨み合いが続いた。
『異能者って、普通に存在してるじゃん。私だってそうだったんだから…』
「知らないってば!」
何か、さっきから非現実な事がありすぎて、どうにもならないっていうか。何も出来ないっていうか。まだこれ夢なんじゃないかって、まだ思ってる。いや、思いたい。
ぎゅっとまた頬を抓る。実はびっくりした表情を見せるけど。
痛い。
やっぱり夢なんかじゃない。現実だ。
じわり、と目が潤んでくる。
怖いよ…。こんな何も知らないところに来ちゃって、分かんない事だらけだよ。これからどうすればいいの? 怖い。一人は怖い。
ぐしぐしと乱暴に目元をこする。それと同時に、ずっ、と鼻をすすった。泣いたら負けだと言われても、泣きたくなることだってある。だって、私まだ16歳だよ? 子供じゃん。泣いたって可笑しくないじゃん。もう開き直ってやろうか。
『ごめん…』
彼は、本当に触れてる訳ではないけれど、私に覆いかぶさった。
『ごめん。キツく言い過ぎたよね…。まだ混乱してるんだろうに、急に話して』
「ううん。大丈夫…。こっちこそ急に泣いちゃってごめん…」
私が謝れば、彼は私からそっと離れて、へらりと笑みを見せた。
『良かった。自分と同じ顔って思っても、女の子だもんね』
ゆっくりと質問するよ。
そう言ったあと、実は本当にゆっくりと、言葉を話し始めた。