空色蜃気楼 | ナノ





 そういえば明日夜練だったなとか、テスト、カバンの奥に入れっぱなしだったとか。やりたいこともやらなくちゃいけないこともたくさんあったような気がする。
 あ、そうだ、今日見逃しちゃいけないドラマがっ!

「……ん、う」

 あれ、何で私こんな声出してんだろう。寝てた?

 あ、そうだ、私車に轢かれたんだっけ? そして湖に落ちたんだっけ? あはは、そりゃあ寝てるよね。目を覚ましたら天国かな。

 パチリと、目を覚ました。

 あれ、地面。空じゃない。いや、また落ちていく中で空は見たくないけどさ。てか、地面が見えるということは、うつ伏せということじゃないか。
 むくり、と至極ゆっくりとした動作で起き上がれば体の節々が悲鳴を上げた。ぼきぼきと今まで動いてなかったみたいに、それはもう盛大な音をたてた。しかも、肩を回したら、ボキョッと言った。
 随分眠っていたのだろう。まだ頭がぼんやりとして正確に頭が働かない。

「……」

 それから辺りを見渡せば、そこは見知らぬ土地。感じからしてご近所ではないみたいだし。そして当たり前だが天国、でも、ないみたい。

「痛い、」

 試しにぎゅむりとほっぺをつねってみれば確かに感覚はある。天国に痛覚がないかと聞かれれば分からないけど、私が生きている証拠にはなる。痛いということは私はどうやら死んでいないみたいだ。じゃああの落ちていくところは、夢なのかな。あの世に行く前に生と死を彷徨った的な。
 なら、あの子供は? きょろきょろと周りを見渡したけれど、あの時助けた子供の姿はない。

 ならば、私だけ、助かったのだろうか? そう思った途端、じわりと涙腺が熱くなった。知り合いでも何でもないけど、例えそれがなんであったとしても、何かが死ぬということはとても辛いことだ。人だからこそ、それが妙に身近に感じる。しかしそれじゃあ、ここは一体何処だろう。

 見る限りさっきまで手にしていたカバンは見当たらない。自分を見れば私服(部屋着)のまま…。ブーツもお気に入りのやつだし。視界にちらつく長い髪は確かに私のものだけど(引っ張ったら痛かったし)。意味が…分からない。

『あ、目が覚めた?』
「いやあ、お陰様で……って!?」

 急にした声に、思わず跳ね上がる。そして周りを見渡してみるも、全く姿が見えない。え、なにこれホラー!? ホラーなの!? あ、でもひ、昼間から幽霊なんて出るはずが…。
 一人でガクガクと震えていれば、前にスっと姿が見えた。そっと上を見上げれば、人物はニコリと笑を見せた。

『やあ!』

 しかし、私は気づいてしまった。


 相手の後ろの風景が、透けて見えるというのを。

「幽霊だあああああああああ!!!」
『あっ、ちょっ逃げないで!!』

 私が慌てて逃げ出そうとすれば、相手は必死に叫んで引き止めた。

「ごめんなさいごめんなさい! 昼間でも幽霊はいます! 何でもするから呪わないでええええ!」
『俺の話を聞いて! 何もしないから!』

 本当? と聞けば、笑顔で頷いてきたので。私は相手に近づく。

『君には俺の姿が見えるみたいだね。俺は実(マコト)。君は?』
「わ、私は誠(マコト)…読書とケーキが大好きな高校生です…」

 どうしよう、普通に幽霊と会話してる…。

『あ、俺も読書とケーキ大好きなんだー。気が合うね! 名前も一緒だし、顔も似てるし、他人って感じがしないよ』

 でも、悪い人ではなさそうだなあ…。

「そうだね、ドッペルゲンガーってやつかなー」

 あれ? 会うと死ぬんだっけ? まあいいか、兎に角一番に気なること聞いてみよう。

「ねぇ、実は何で透けてるの?」
『……じつは俺、死んじゃったんだ…』
「え…?」

 ええええぇぇぇぇえ!!?? バリバリ幽霊じゃないっすか!

「え、何で何で!?」
『うーん、実はザシュッと殺られちゃった』

 コツンと頭を手で小突いてるけど(俗にいうてへぺろってやつですか)、言ってること物騒じゃありませんか!!??
 私が信じられないと、そんな表情でいれば、相手は急に真面目な顔になる。

『実は、この湖に来ていた際に、とある子に殺られちゃったんだ』
「な、何で…?」
『分かんない。けど、色々と未練があってまだここら辺ウロウロしてたら、君が急に落ちてくるもんだからさ』

 ピシリと、体が固まった。
 そう言えば、私も死んだのではなかったか…? それで、こちらの方に飛ばされた…? のではないか?

「じつは、私も死んでる…んだ、けど…」
『え!? じゃあなんでこんな体はちゃんとあるの!?』

 そう言って、実はペタペタと私の体を触る。
 しかし、相手の手が私の胸に当たった瞬間、相手の動きが止まった。
 ……ん?
 相手の顔は、簡単に言えば顔面蒼白。何だろう、胸触ったのに申し訳なく思ったのかな。別に良いのに。今のはわざとじゃないだろうし、それに女の子同士だし。

『えっと、さ…。あの、誠って、女、の子…だったりする?』
「は? 何言ってるの?」
『だ、だよねー!』
「どう見ても女でしょ」

 私がそう言えば、向こうは、もういい笑顔になっていた。

『そっか!』
「うん」
『ごめんなさい』

 実はそう言うと、湖のほうに歩き出した。

「何してんのおおおおお!」
『ええい! 死なせて! 死なせてえええ!』
「アンタはもう死んでる!」
『そっか!』

 なんだ、その目からウロコみたいな表情。
 しかし、さっきの反応といい、今の反応と良い…。そう言えば一人称は俺だったような…。

「まさかアンタ…」
『うん。男だよ』

 自分と全く同じ顔が異性だなんて、信じられるか。





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