俺は幼いころ、親父の事情によって、ヨーロッパに引っ越した。特に長かったのが、イタリアだったと思う。3か月くらいはイギリス、他も数か月という感じでフランス、ドイツ、スペイン等、寧ろ旅行感覚で旅立っていた。それで、イタリアが小学校の6年間暮らしていた。
親父の事情という奴は、当時の俺には全く分からなかっらけど。
親父は過去に何回もヨーロッパの方に出て、知り合いも無効に結構多いらしく、引っ越しても心配はないさ! と引っ越す前はずっと言っていた。けれど、母さんは日本に残るらしく、俺は少し複雑な心境だったのを覚えている。
んで、何で俺は着いていくことになったのか。理由は簡単。
俺に力が必要だから、だから修行のため親父に着いて行った。ヨーロッパは親父が昔居たところ、だから丁度良かったんだ。
しばらく母さん達と会えないのは寂しいが、しょうがない。
我慢するしかないんだ。
幼いころはそう決めて、親父と共に、ヨーロッパに旅立ち、イタリアに住み着いた。
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そんな俺はイタリアに来てすぐ、道を覚えるために街を歩いていた。今までの経験上、迷うと大変だと知ったからだ。イギリスは特に恐ろしかった気がする…。いや、怖かったんだよ…。ホラー的な意味で。
それは置いといて、しばらく歩いていると少し広い広場に出た。そこは噴水のある綺麗な広場。思わず見入ってしまうくらい、綺麗だった。
ふと、眺めていれば、奥の所で俺と大して変わらない少年達がサッカーしている。大人も居るから、コーチなのかな、あの人…。
あとは帰るつもりだったから混ぜて貰いたかった。けど、俺はまだイタリア語が話せないから、声をかけられない。
自分の勉強不足が憎い。凄い憎い。
そう思っていると大人の人が俺に気付き、こっちに来た。
「Bonjoulno! I'l Hayate! E,lei?」
(こんにちは!!俺はハヤテ!!一緒にやらない?)
と声をかけて、目線を合わせてボールを前につき出してきたけど…今何て言ったんだ…?
「え…あ…分かりません…」
思わず日本語で言ってしまった…。思わず下を見て俯く。向こうは無言だし。きっと言葉が伝わらなくて、悩んでるのかもしれない。
そりゃそうだよな。イタリア人が日本語知ってるのはあまりいないだろうし…。
「……」
お互いに黙り込んでしまった。
しかたない、帰るか。
そう思って向こうを向いた瞬間…。
「日本人?」
思わずバッと振り返った。相手の人は、俺の目を真っ直ぐ見つめながら言ってくる。俺は彼の言葉に頷けば、彼は口角を緩めて、言葉をつづけた。
「そっか、俺と同じなんだな」
珍しい髪色だから、日系に思えなかった。そう言いながら笑う彼も、確かに、よく見れば日系な顔立ちだ。髪の毛も黒に近いし。
彼は傍にいた男の子たちに何やら声をかけ、離れて俺の方にやってきた。
「お前の名前は?」
「虎臣白夜」
「へえ、かっこいいな」
2人でベンチに座りながら会話する。こうやって、親父以外の日本人と会話するのが初めてで、すっごい嬉しさと、緊張で少し手が震える。その様子を見て、ハヤテは笑った。
「俺の名前は雨宮疾風」
「何歳なの?」
「何歳に見える?」
「え!?」
そんな難しいことを…! でも結構大きいし、大人っぽく見えるし…。高校生くらいなのかな。
「高校生?」
「お、当たり」
因みに16歳だ。そう言った彼は、結構大人びて見えた。何でだろう、ヨーロッパだとそう見えるのかな。俺が日本で見てきた高校生より、大人びて見えた。周りに、俺と同年代ぐらいの子がたくさん居るからだろうか。
「お前は?」
「俺は6歳」
「お、丁度10歳差か」
俺達がそんな会話していたら、疾風の足元にころころとボールが転がってきた。それを疾風が拾って、サッカーしていた男の子たちに渡していた。男の子たちは笑顔で受け取り、そして俺の方を向く。
やっぱり顔立ちって違うもんだなあ、と思っていれば、さっきの疾風みたいにボールを突き出してくる。
「E,lei?」
さっきも聞いた気がするけど、これなんて言ってるんだ?
そう思って疾風の方を向けば、彼は笑みを浮かべて、男の子に耳打ちをした。男の子は頷いて、ゆっくりと口を動かす。
「Ah〜,Hello! Let's play soccer together?」
とたどたどしい英語で話しかけてくれた。これなら俺でも分かる!
当時親父に、基礎中の基礎として、めっちゃ基本なことは習っていた。
「OK!!」
俺は力一杯うなずき、受け取ったボールを思いっきり蹴り上げた。
「Meraviglioso!!」(すっげぇ!!)
「やるなぁ」
男の子が何かを叫んでいた。俺にはまだ意味は分からないけど…。疾風が言ってくれた言葉が嬉しくて、思わず笑みがこぼれる。
「お前サッカー上手いな」
「前イギリスとか、スペインやドイツに行ってたんだ」
「なーるほど」
他の人たちとも一緒にやっていると、とても楽しかったし、疾風も楽しそうだ。初めて仲良くなれた日本人だから、俺もすげえ嬉しい。
皆の名前も教えてもらったりして、皆とサッカーしていたら、いつの間にか夕方になっていた。
皆が帰ろうとする中、俺は自己紹介という大事なことをしていないことに気付いく。イタリア語はまだ無理だけど、チャレンジしてみようか。そう思って口を開く。
「・…あ…、マイ ネームイズ 白夜」
めっちゃ発音悪くて、思わず顔が赤くなったけど、そんなことお構いなし。皆はこれからも宜しく! と言わんばかりに抱きついてくる。
…恥ずかしかったけど、イタリア式挨拶と分かっていたので(勉強した)俺も答えた。
「ち…ヴェディアーモ…プレ…スト…(Ci vediamo presto.)」(また会おう)
伝わるかな…。と思って皆を見ると、満面の笑みで
「Si!!」
と答えてくれた。俺は嬉しくて、俺も満面の笑みで笑い返した。
皆が帰っていくと、俺と疾風だけが残る。俺が疾風の方を見れば、彼は俺の頭を優しくなでてくれた。
「よく言えたな! 偉いぞ!」
「…えへへ」
照れて思わず笑みを浮かべれば。疾風は手を差し伸べる。
「送って行ってやるよ」
「ありがとう!」
「これからも遊ぼうぜ?」
疾風がそう言ってくれるのが嬉しくて、俺は思わず疾風に抱き付いた。
「ありがとう!」
「どういたしまして」
抱き付いた俺を受け止めて、そのまま疾風は俺を抱えたまま歩く。けど、俺は色々疲れがたまっていたらしく、疾風の腕の中で眠ってしまった。
こうやって安心できる人が居て、これから先の生活も楽しみだな。
夢の中でも、さっきの皆でサッカーしてて、思わず笑みがこぼれた。
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