私は自分自身で誇れることは、音楽だけだと思ってた。過去形になってしまったけど、気にしないで欲しい。

　小さい頃、親に連れられ向かった先はピアノ教室。当時３歳だった私は、ピアノの音がまるでキラキラ光っていたかのように見えて、先生に伸ばされた手を、離すもんかとギュッと握った。
　それ以降音楽の素晴らしさを知った私は、ずっとピアノを弾き続け、音楽一筋となった。
　音楽一筋とい言う私は、小学４年から課外活動でやっていた音楽部（まあ中学に上がると吹奏楽、というものになるやつだ）に熱中していた。最初は、他には全然良い活動もないし、やってみるかー……。という感じの軽いノリだったけど、やり始めたら、あら不思議。もとから音楽が大好きな私は、とことんハマり始めたわけです。
　そこで出会ったのがトランペット。やっぱり小さい頃って、目立ちたいって気持ちもあるのか、主旋律をずっと吹いている、この楽器が輝いて見え、そこでトランペットに興味を持った。

　それから時が経ち、私は中等部になりました。
　音楽部に入っていたとなれば、続けるしかない。そういう思いから、中等部に入学し、迷いなく入部届けに吹奏楽と書いて、担任に差し出した。

　そしてまあ、軽い自慢話になるが、私はトランペットなら学校内で誰にも負けない自信があった。初等部からトランペットをし始め、ピアノをやってたから楽譜も読める。そして私は他の子より肺活量もある。
　しかも、私の学校は有名な名門校である。そんな中で、早速1stやソロを任されたり。そりゃあ自信を持っていてもしょうがないだろう。しょうがないんです。察してください。

　しかし、中３のとき、私の学校は金賞を逃す。そして負けた学校は、県ではそこまで有名じゃない学校。
　今まで全然視界に入っていなかった。だから感覚で言うと、戦ったのは１回、という感じだろうか。

　大会の結果は、数人の審査員が１０点満点でそれぞれ点数を付け、その合計点で主に決まる。そして、全体の結果は（学校名が記されていない）結果が書かれた紙で分かる。それを見れば、私達はギリギリ金賞を逃していたことが分かり、悔しい思いをした。そして向こうのある金賞を見れば、一個上の金賞との差。たった一つの区切りであるのに、圧倒的な点数で大敗。
　　悔しくてしょうがなかった。

　そんな私達の地域は、大会が終わっても学校合同の演奏会がある。
　正直さ、嫌じゃん？　負けた学校のいるところと合同なんてさ。
　それでも？　変な言いがかりは言われたくないし？　渋々？　一緒に演奏会をやったわけですよ。
　どの曲をどうパート分けするのか、それを決めるのは各学校の各パートのリーダー。という事で私は、向こうの学校に向かって話し合いをしに行ったのですよ。

　そしたらね、向こうのパートリーダーは男だったんだよ。それも幼なじみ。聞いてねーっての。しかも、大会の時は順番の関係で演奏が見れなかったけど、噂では『物凄い少人数でやってた』ってのがあったけど、本当だったんだよね。
　向こうのペットは彼１人だけ。それで彼と打合せしたとき、彼、なんて言ったと思う？

「え？　パート分け？　ああ、僕がずっと1stやるから、問題ないよ。君たちは2ndと3rd振り分けな？」

　正直さ、

（なめんじゃねえよ）

　って思うよね。
　まず第一に緑に近い頭。何だお前の頭、光合成でもすんのかボケ。確かにペットは主旋律で大切で、帝王の楽器とか言われてますよ。でも何で全部自分でやるように思ってんだよ。私たちには出来ねえってか？　笑顔で言ったって意味ねえんだよ。
　ねえ、吹奏楽って団体でやるの。団体でやる活動なの。ねえ知ってた？　
　その生意気そうな顔は本当に正直なんですね。全くわかりやすくて助かりますよクソ野郎。酸素吐き続けてしね今すぐしね。
　まあでも、いろいろ説得して、私達にも数曲1stは回ってきたんですけどね。

　そして演奏会本番。コイツは完璧と言えるような演奏をしてみせた。男だからこそ可能な、女の私には到底できないような、ハッキリとした、凛々しい、帝王の楽器という名の価値を下げないような音。　
　それに対し私達は彼のあとに吹いたせいか、迫力が感じられないように思えた。
　そして演奏が終わったとの、この男の勝ち誇った顔。ここまで人に腹が立ったこともないし、悔しいとも思ったこともなかった。

　決めた。こいつはぜってーぶっ倒す。ぶっ倒すといっても、本当に殴ったりとかはできないから、私の演奏でグウの音吐かせる。私にしかできないような演奏で、それを聞いて感動して泣き崩れろよクソ野郎。

　その後部活も引退して、進学の時期になりました。まあ私は高等部に進むだけだけどさ。
　高等部に行ったらまたきそうんだろうな。だったらもっと上手くなってやる。

　そんなトンガリ朱理ちゃんも高校生になりまして。

「……は、」

　かくかくしかじか。
　緑頭の新入部員が居たのです。

「はああぁぁぁ!!??」

　向こうも私に気付いたみたいで？　あの憎ったらしい笑みを浮かべるわけですよ。
　私はコイツにギャフンと言わせるために、頑張ってきたのに、その目的であるやつが同じところにいるだなんて。誰が予想していただろうか。

「ははっ久しぶり。ちょっとした事情でこの学園に入学したんだ。宜しくね？」
「こ、これから宜しくお願いしますね……！　千束くん……!?」

　頭がアオミドロの色のくせして…！　さっさと水中還れ！
　
「君、続けてトランペットやるんだろう？」
「だったら…!?」
「まぁ、頑張ってね」

　コイツの心情とか、そんなのどーでもいい。
　知らねえし、知りたくもねえ。
　でも、だからって、踏みにじられて黙っていられるほど、大人でもねえの。

（有っりえねえ…！）

　あー、ムカつく、ムカつくムカつくムカつく　ムカつく。

　やんなっちゃうよねえ。ぶっ飛ばしてやりたいよねえ。
　諦めるもんか、舐めんじゃねえよ。

「お前、絶対泣かしてやるからな…！！」
「……へぇ」

　名門校でのトランペッター、舐めんじゃねえぞ。



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