バチッと音がしたと共に、俺に触れてきた男子が「いてっ」と腕を引っ込める。彼が手に持っていたプリントは、彼の手から滑り落ちて、廊下に舞うように落ちた。
 隣にいた彼の友人は、大丈夫かと男子に問いかける。

「大丈夫…?」

 俺がそう問いかければ、2人は俺の方を見て、冷めた目つきで見てきた。


「こっえー…」


 その言葉を聞いて、俺は視線を逸した。

「だからアイツにプリント渡すの嫌だったんだよ」
「噂は本当だったんだな」

 男子2人がそう話しながら、去っていく。
 俺は彼らが渡そうとして、地面に落としたままのプリントを拾い、軽く手で埃を払った。
 大丈夫、慣れてる…。

 人が近づいてきた時の注意は必須。怪我されたときは、俺が必ず加害者になってしまうから。
 だから、俺は他人から離れて生活してきた。そうすれば毎日を穏やかに過ごすことができる。

 昔はこんなことなかったんだ。
 最初に異変が起きたのは、小学1年の頃。友達が俺に触れた時に、静電気みたいのが走った。最初はただの静電気だろうと思ってたんだけど、違ったみたい。
 季節関係なく、ほとんど毎日のように、触った人に電気が走る。それは収まることはなく、逆に日を重ねるほどに、電気は強くなっていた。
 それが分かると、俺の周りに居た友達は、怖がるように離れていった。最初は仲良くても、親が許してくれなかったりね。

 だから、気がつけば一人ぼっちってわけさ。笑っちゃうよね。

 でも、逆に一人でいれば、誰も傷つかないし俺も変に傷つかない。
 だから、俺は他の子と関わらない。
 
 そう決め込んだ時だった。


 ある日、学校に行ったら、下駄箱に俺の内履きがなかった。
 しょうがないから、靴下で教室に向かえば、ゴミ箱に俺の内履きが捨てられていた。周りに居た男子は、ニヨニヨと笑っていて、女の子はどうしようかとチラチラとこちらを見ていた。
 俺はその内履きをそのままにしておくことにした。ゴミ箱に捨てられたものを履きたくないし。

 そのまま席に座れば、近くにいた男子が俺の近くに寄ってきた。

「よう化け物!」

 それだけ言って、机に置いたランドセルを、手で地面に叩き落とす。
 笑いながら去っていく相手を見て、俺はもう逆に冷静になってた。

 直接が嫌なら、関わらなければいいのに。俺がわざわざ近寄らないでいるのに。

 思わず前にいる男子達を睨みつけて、唇をかみしめて、両手に力を込めた。

 その瞬間、分かったんだ。これから電気が放たれてしまうって。今までは全然自覚なかったけど、この瞬間、電気が放たれると分かった。

 そうだ、このままあの男子たちに電気をぶつけてしまえばいいんじゃないか。そうすれば、もうアイツ等も俺に近づかない、いじめない。
 思わず立ち上がって、彼らの方に手を伸ばした。

 いっそ、ブッ壊れてしまえ。
 ピリッと指先に電気が走った。それと同時に、思わず目の前の光景に目が開かれた。




 俺を虐めていた男子が、別の男の子に思いっきり飛び蹴りを食らっていた。

 急な出来事に、俺は驚きを隠せず、そのまま固まる。

 男子は少し転がって、飛び蹴りを食らわせた男の子は、その場に華麗に着地した。
 男の子は、その場で伸びている男子を冷めた目で見ている。紺に近い黒髪で、青い瞳が特徴的な、目つきが少しキツイ男の子。
 クラスも一瞬シンと静まり返ったが、直ぐにざわめき出す。
 男の子はいじめっ子たちの方に近づき、口を開いた。

「くっそくだらねえ馬鹿なことしてんじゃねえよ、カス」

 いじめっ子たちは恐怖でか震えてる。そして男の子は舌打ちをして、言葉を続ける。

「何か言ったらどうなんだよ。あ?」

 虐めっ子はひっと情けない声を上げてから、俺の方を涙目で見る。

「ご、ごめんなさい!」

 男子2人が謝り、俺は一瞬ポカンとしていたけど、直ぐに首を縦に振った。

 男の子は俺の方に近づき、そのまま俺の腕を引っ張って、教室から出ていく。
 急なことに俺の頭はまだ混乱してて、俺はされるがままについていった。


 しばらく歩いていけば、中庭について、男の子は振り向いて俺の方を見た。

「急にゴメンな」
「え、あ、いや…。助かったし、っその…ありがとう」

 俺がそう言えば、彼はうんと言ってから、その場に腰掛ける。俺はそれに続いて彼の隣に座る。

「俺は東堂源輝っていうんだ」
「俺は、」
「知ってる。西野優羽だろ」

 有名だからな。
 彼はそう言うけど、俺は嬉しくない。その有名なのは、良い意味でではないから。
 俺が思わず神戸を垂れれば、彼は話を続ける。

「お前、あの時俺が行動しなかったら、アイツ等殺すところだったろ」
「ころっ…!? そんなこと、」
「完全に否定はできないくせに」

 うぐっ、と言葉が詰まる。
 確かに、あの時はもう全てブッ壊れてしまえって、もう嫌だってなって、俺は…。

「何しようとしたんだっけ…」

 彼は俺の方を見ながら、言葉を続ける。

「お前は、自分のこと化物だと思う?」
「え?」

 皆に化物って言われて、自分はどう思う?
 そう言われて、俺はどうだろうと、思わず黙り込んだ。

「分かんない。自分は違うって思っても、周りはそうじゃないんだって…。周りから見れば、俺は化物らしいから」

 思わず目から涙がこぼれた。ボロボロとどんどん出てくる。ついでに泣き出したら、しゃっくりも止まんなくなってきた。
 そんな俺の背中を、彼は撫でた。

「駄目だよ、電気が…」
「別に」

 実際に電気はビリビリと出て、彼の手がしびれてるのがわかる。それでも彼は手を止めない。
 もっと涙が出た。

「俺、もう嫌だよ…。化けっ物って、言わ、言われるのもうヤダぁ!」

 俺がそう言えば、

「じゃあ、行った奴ら俺がまた蹴り飛ばしてやるよ」

 俺が思わず彼を見れば、彼は笑みを見せた。

「俺も、実は化物だからさ」
「え?」

 思わず聞き返せば、彼は少し目をつぶる。急にどうしたんだろうと思えば、パッと目の前から彼が消えた。
 ……え、えぇ!?

 俺が思わず驚いて立ち上がれば、後ろから声がする。
 急いで振り返れば、彼は平然とした顔で立っている。

「な、え、えぇ!?」
「俺もお前と同じだよ」

 そう言って、彼は続ける。

「仲間だな」

 そう言って笑う彼に、俺は一瞬ポカンとしたけど、思わず吹き出した。

「やだよー。化物仲間だなんて」
「事実だろーが」

 思わずふてくされる彼に、俺は思わずもっと笑顔になる。

「じゃあ、何がいいんだよ」

 彼はそう言って、俺の方を見る。
 ……言っても、良いのかな…。こんな俺が…。
 俺がずっと悩んでいれば、ブチッと目の前の彼から音がした。え、なんかキレた?

「あーもうウザってぇな。お前が言わねえなら、せめて返事しろ。『はい』か『いいえ』だ」
「は、はい」

 俺が思わず返事すれば、彼は少し俺を睨んでから、そして少し目線をそらしてから言った。

「俺と友達になってくれ」

 そう言った彼の言葉は、俺が言いたかった言葉で、思わず涙が出そうになったけど、なんとか堪えた。
 そして、出来るだけの笑みで、彼の方を見る。

「うん!」


← / →



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -