始めて彼と出会ったのは、私と水憐が6歳のころ。もう10年以上も前のことだから、色々な記憶が危ういけど、鮮明に覚えていることもある。

 当時の私は、時羽に入学して本当に少し経ったあとだった。その時には両親はちゃんと居て、私たちとずっと接してくれていた。
 そんな両親は、時羽と協力して異能者を預かっている仕事もしていた。軽い孤児院みたいなものだろうか。時羽が用意したその施設を、私たちの両親や他の人たちの協力で、預かっていた。まあ中学に上がれば、寮生としてそのまま寮に移ったりするんだけど。

 私も偶にその施設に行って、一緒に遊んだりもしていた。

 今回はそんなある日、水憐がお父さんと一緒に泊まりで出かけ、お母さんが施設に出かけ、私が家で一人留守番をしていた時の話だ。


 丁度その時は雨が降っていて、洗濯物入れないといけないなあと思っていたとき、ガシャンとガラスが割れた音がした。

「何だろう…」

 当時6歳の私には、恐怖心があまりなかった。今よりずっと。寧ろ今の方が恐怖のもの多い気がする。
 まあそれはおいといて…。兎に角音のしたベランダに向かえば、そこには割れたガラスの前に、男の子が立っていたんだ。

「誰?」

 私が首をかしげながらそう問えば、男の子はゆっくりと顔を上げた。
 銀色の瞳が、とても綺麗だなと思った。
 当時の私は6歳だから、本当に本能に従う感じで行動してて、だからよく親とか先生に怒られたりしたんだけど…。それがどの時にも発揮された。
 私は迷うことなく男の子に近づいた。

「ねえねえ、誰?」

 もう一度私がそう問うけど、相手は無反応。私は少し考えてから、口を開く。

「私はね、飛騨火燐って言うんだ! この家に住んでるの!」

 笑顔をなるべく浮かべながらそういえば、相手の男の子はゆっくりと口を開く。

「か、り…ん」
「うん、火燐!」

 私が勢いよく首を縦に振ると。彼は少しびっくりして目を丸くしていた。それに軽く謝り、彼を見るとびしょ濡れなのに気づく。タオルを持ってこようと、その場で待っててもらった。
 タオルを持ってくると、彼はその場に座っていて、私は彼の髪を乱暴にタオルで拭いた。

「どうする? お風呂入る?」

 冷えちゃうよね?
 私がそう言えば、彼は一瞬びっくりした顔をして私を見る。

「良いのか…?」

 うん!
 そう言って首を振れば、彼はじゃあ頼むと言ってきたので、取り敢えず風呂場に案内して、その間に水憐の服を拝借することにした。

 それにしても、何で窓ガラス割って入ってきたのかなー。
 なんて、今の私だったら怒鳴るだろうけど、当時の私は当然のように窓ガラスを割る子供だったので、大して気にしてなかった。
 おや、だって怪力だったし…。昔から…。

 なので、私はガラスを集めて、それを新聞紙でくるんで、玄関に捨てておいた。
 当時からやっていたことなので、慣れたものである。

 そんな片付けをして、温かいお茶を用意していれば、彼が風呂から上がった。

「風呂、ありがとう…」
「ううん大丈夫! まあ座りなよ」

 居間の座布団に座らせ、彼にお茶を差し出し、私も座る。
 彼はゆっくりをお茶を飲んでから、口を開いた。

「なあ、俺を不審者扱いとかにしないのか…?」
「え?」

 急のことに首をかしげる。

「だって俺、いきなり窓ガラスを割って入ってきたんだぞ?」
「まあ、私もよく割っちゃうし」

 けろっとした調子で言えば、彼は驚いた顔をする。

「私怪力なんだよねー! 困っちゃうね!」

 私がそう笑顔で笑えば、片手で湯呑がバキャッと割れた。あ、やっちゃった…。お茶は入ってなかったから良かったものの…。
 チラリと彼を見れば、これでもかと目を開いていた。

「ね?」
「あ、あぁ…」

 私は割れた破片を集め、テーブルの隅っこに移動させる。あとであとで!

「で、君は誰?」

 私がそう問えば、彼は一瞬お茶を飲んでいた動作を終了し、湯呑を置いた。

「俺は、空木焔真って言うんだ…」
「へー、じゃあ焔真だね! 何歳?」
「7歳」
「あ、じゃあ私の1個上だ!」

 何であんなところにいたの?
 私がそう問えば、彼は動きを止めた。どうしたんだろう、そう思っていれば家の電話が鳴った。
 焔真に一言いってから、電話を取りに行く。

「もしもし、飛騨です」
『あ、火燐?』
「あ、お母さんどうしたのー?」
『えっとね? こっちの施設で風邪が流行っちゃってて、面倒見なきゃいけなくなって…』
「えぇ!? 大丈夫なの!?」
『大丈夫なんだけど、帰るのが3日後になっちゃいそうなんだけど…大丈夫?』

 お母さんにそう言われ、大丈夫と直ぐに返そうと思ったけど、よく考えたら水憐とお父さんも居ないんだったなあ。初めてかも、誰もいない中お留守番…。いつも水憐が居たから。

『無理そうだったら、お母さん帰って…』
「いや! 大丈夫だよ! この際に料理頑張ってみるもん!」
『うーん、一応材料と作り置きしたものはあるから大丈夫かな…? 無理だったらコンビニ行きなね? お金は返すから!』
「うん! 分かった! お母さんも気をつけてね!」

 私がそう言って電話を切る。
 そして焔真の方を向けば、彼は私の方を向いていた。

「母親か?」
「うん。今お父さんと弟も出かけてて、お母さんも3日くらい帰って来れないらしいんだー」

 困ったねー。なんて呑気に言っていれば、彼は「そうか」と小さく声をもらした。

「もう寝ようか。夜遅いし!」

 私は焔真の手を取って、腕を引っ張る。

「おい!」
「一緒に寝ようよ!」
「はあ!?」
「今誰もいなから、少し怖いんだー」

 えへへと笑みを浮かべながらそういえば、彼は呆れた顔をしてから、小さくため息をした。

「俺は客でもなんでもないんだぞ。俺はもう出る。世話になったな」
「……」

 焔真はパシッと手を払ってから、腕を組んでそう言った。
 私は彼をじっと見ていれば、彼は「なんだよ」と聞いてくる。

「じゃあ、何で私の家に来たの?」
「っ、それは…」
「何か理由があったんじゃない? 普通玄関から入るのに、それをしない慌ててた理由があるんじゃない?」

 私がそう聞けば、彼は暫く目を泳がせてから、口を開く。

「……兄貴に、言われたんだ…。そうしろって…」
「お兄さん?」
「兄貴に、この家に行けば大丈夫だって…。窓ガラスを割ったのは、俺が混乱してたからだ。本当に悪い」

 ん? ん? ごめん話が繋がらない。分かんないや。
 私が一人で悩んでいれば、そんな様子を見ていた焔真は、本日何度目かの溜息を吐く。

「お前の母親に用があったんだ。でも居ないなら別にいい」
「待ってってば!」

 また帰ろうとする焔真の腕を掴む。
 その反動で、思いっきり引っ張ったら、焔真を後ろに放り投げてしまった。

 あ、やっちゃった…。

 幸い座布団の方だったので大惨事ではないが、彼はひっくり返っていて、何が起こったのか分からない顔をしている。私はそっと彼に近づき、彼を起き上がらせて、視線を合わせる。

「えっとさ、お母さん3日もすれば帰ってくるから。だから、一緒に待ってようよ」

 一人だとさみしいよ。
 私も君も。

 そう言えば、彼の目からボロッと涙がこぼれた。
 私はそっと焔真に抱きついて、背中を叩く。あ、もちろん加減はしたよ!



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