「どうしたの? 可愛いお嬢さん」
しゃがみこんでいたわたしに、めのまえのおにいさんが、ハンカチをわたしてきた。
ちゃいろのかみのけ、なんか、いろいろな色のピンしてる。わたしももってないような、たくさんの色。
それに、おめめがきいろ。あまりね、見たことない、きれいな色。
「だれ?」
「通りすがりのお兄ちゃんだよ〜」
取りあえずこれで涙ふいてごらん? 涙ふいた方が可愛いよ?
おにいさんは、にこにことえがおでいってくれる。わたしは、ないてる気はしなくて、でも、ないちゃってるところを見られて、はずかしくて目をこする。
おにいさんは、こすっちゃだめだよ。なんていいながら、いいこいいこってあたまをなでてくれた。それがうれしくて、ハンカチでふく。あ、はなみずついちゃう…。でも、おにいさんはきにしないで、えがおで、だいじょうぶだよっていってくれた。
おにいさんは、わたしとおなじようにしゃがみこんで、わたしに手をみせてくる。
「なにか、困ってるんじゃないかな?」
とても真剣な顔をしていたから。それで寂しそうだったよ。困ってるなら、お兄さんがお手伝いできるかもしれない。良かったら、お兄さんに話してみない?
そういってくれたおにいさんは、やさしそうで、うんとくびをふって、おにいさんと手をつないだ。
「あのね、ママとね、おかいものしててね」
「うん」
「ちょっとえほんをね、みてたらね、ママがいなくなっちゃったの」
「そうなんだ…はぐれちゃったんだね?」
うん、とおへんじしたら、おにいさんは「そっかー」といって、あたまをなでてくれた。それが、ママとにてて、めがあつくなってきちゃう。
「きっとわたしね、おいてかれちゃったの…」
でてこなくなったなみだが、またでてきちゃって、はなみずもでちゃって、またハンカチつかうのはかわいそうだから、手でごしごしする。
おにいさんはティッシュをだして、わたしのはなにあてた。
はい、チーンしてごらん。そのことばもママとおなじで、またママがうかんでくる。
ひとさまにめいわくかけちゃいけません。まえに、ママがそういっておこったことがあった。だから、またおこられちゃうかな。でも、ママにあいたい。
「俺はね、君みたいに可愛い子を、お母さんは置いてかないと思うよ」
「…ほんと?」
「ホーント!」
おにいさんは、わたしのほっぺをつんつんと、つっついてきた。ちょっとくすぐったい。
「だからそんな顔しないで? お兄さんも一緒に探してあげる。きっとすぐに見つかるよ」
「いいの?」
「もっちろん!」
おにいさんは、わたしのてをやさしくにぎって、にこにことわらってた。
「そのかわり、見つかったら笑顔見せてね?」
「……うん!!」
*****
「うわああああん!!」
「困りましたねえ…」
ママーー!!
ぼくのさけびごえが、すごくおおきいみたいで、まわりのひとたちがこっちをみてる。でも、そんなのきにならないくらい、ぼくはないてた。
「がっちり掴んでますねえ…。えーっと…君、大丈夫ですか?」
もしかして迷子ですか? お母さんは?
「うわあああ!!」
ママどこにいってたの…。かってに、おもちゃみてたぼくがだめだったんだよね。でもさみしかったよぉ…。おもちゃなんていらないから、ママごめんなさい…。
「こういう時どうするんでしたっけ…。迷子センター…の位置、は…。あまりこういう場所では使いたくないんですが…」
ぐすぐす、はなみずとなみだとまらない。どうしよう。
ずっとないててとじてためをあけると、めのまえにはおねえさんがまわりをきょろきょろとしていた。
「……おねえさん、だぁれ?」
「あら、自覚してなかったんですね」
ずっと、私のスカート掴んでましたよ。
おねえさんはにこりとわらって、ぼくのあたまをなでてくれた。おねえさんのスカート…あ、ママのふくとにてる。だから、ぎゅってしてたんだけど、ちがったんだ…。
ママじゃ、なかった…。
ママじゃないって、わかったら、なんだかまた、さみしい。
「ふぇっ…」
「あぁ、泣かないでください…」
おねえさんのかおが、ぼくとおなじところにかおがある。さっきまでみえなかったから、すこしあんしんした。ママよりちょっとながい、かたくらいのかみのけと、あとめがあかい。
「うさぎさん…」
「うさぎさん…?」
あぁ、目ですか。おねえさんはすこしびっくりしたけど、すぐににこにこになる。
「えほんの、うさぎさんみたい」
「あら、それはそれは…」
私実はうさぎさんなんですよ。おねえさんは、ぴょんぴょんって、みみをしてる。ほんとうにうさぎさんみたいだ。
うさぎさん。ぼくがよぶと、おねえさんはどうしました? といってくる。
「ぼくの、ママしらない…?」
ぼくがきくと、おねえさんはぼくのめをじっとみて、すぐにまゆげをへにょんってした。さっきのにこにことは、ちょっとちがう。
おねえさんはぼくのあたまをなでててくれて、そのままごめんねと、ごめんなさいしてきた。
「私は貴方のママは分からないです…」
「そっか…」
「なので、一緒に行きましょう?」
君のママを探してくれる場所にですよ。
おねえさんは、こんどはさっきみたいな、にこにこしたかおで、ぼくのあたまをなでてくれる。
おねえさん、すごいひととしりあいなんだね。なんていってみると、おねえさんは「しー、ですよ?」といって、ゆびをくちにあててた。
あ、これ、ママがたまにするやつだ。
ぼくも、まねしてシーしてみれば、おねえさんはにこにこしながら、ぼくのてをやさしくにぎった。
「もう少しだけ、頑張れますか?」
「うん」
おねえさんに、いいとこみせるね。それはたのしみです。
おねえさんのては、おかあさんよりちいさいけど、まけないくらいにあったかかった。
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