じーっと、焔真のピアスをガン見する。
そんな焔真は雑誌を読んでいるんだけど。ソファーに座って、背もたれにもたれかかって読んでいる姿は、日常的な姿だ。
そんな私はソファーの肘掛に手を当て、こそっという効果音がぴったりな感じで、焔真を見ていたのだった。
見られている焔真は軽く眉間にしわを寄せ、軽く目を瞑って溜息を吐いた。
「どうした。なんかあったか?」
パタンと雑誌を閉じて、私を見る。
私は変わらず焔真を見続ける。正しくは焔真のピアスだけど。
「焔真って自分でピアスあけたっけ?」
「あ? あぁ、そうだな」
私が聞けば、焔真は自分のピアスをちょいちょいといじる。いじれば、ピアスのチャラッという音が聞こえる。
それがどうした? と焔真が聞くので気になったことを聞いてみる。
「何であけたの?」
ピアッサーかな。でもピアッサーって高いよね。
「あぁ、これは安全ピンだ」
「安全ピン!?」
最後のンが裏返った。それに焔真が吹き出したけど…。いやいやいや! それって怖くない!? 怖くない!?
ほら、ピアッサーはバチンって押せばいいけど、安全ピンって自分でブスって指すんでしょ? し、信じられない…!
私が思わずそんな表情をすれば、焔真はどうしたのかと、少し心配そうな顔をされた。
「いや、あの…焔真の持ってるピアスって、余ってるのかなーって」
「まぁ1個しかしてないからな…」
「2個じゃないの?」
「4個ついてたやつなんだ」
「そ、そうなんだ…。で、でね。だから、もったいないな的な…」
私がそう言えば、そう言われてもな…。と焔真が軽く困った顔をする。
うぐうう! 普段は鋭いくせに、こういう時は鈍感だな!
「私もそのピアスしたいの!」
「は?」
「えぇ!!??」
私が叫べば、焔真が驚いた声を出した。しかし、もう一つ違う声が聞こえたんだが…。
くるっと焔真と一緒に声のした方を向けば、そこに立っていたのは彩兎だ。なんで彩兎が驚くんだ…。
「か、火燐ちゃんあけちゃうの!?」
「え、あけたいなーって…おもって…」
「それで焔真とお揃いにするの…?」
「焔真のつけてるのいいなって思って…」
「じゃあ僕も付ける!」
「えぇぇ…」
めっちゃ必死じゃないですか表情が。ちょっと怖いよ彩兎さん。普段のヘラヘラとした表情はどうしたの。
彩兎は私の手をガシッと掴むと、ずいっと顔を近づけた。近いよ彩兎さん。
「僕とお揃いにしよ!」
「お前ら、まずはあけてからそういう話しろよ」
焔真が呆れた表情をしながらそう言った。そ、そうだね…。まずはあけてからだ。
私は焔真の前に正座した。
「私の耳にあけてください!」
私がそう言えば、焔真が軽く何とも言えないといった表情になる。
「お前…本当にあけたいのか?」
「う、うん!」
私が首を激しく振れば、焔真は小さく息を吐いてから立ち上がる。
そして救急箱から消毒液。それと安全ピン。それと冷蔵庫の中から保冷剤を取り出した。
えっと、なんかもう逃げ出したくなってきた。
全て手に持ってから、私の前に座り、まずは安全ピンを消毒液で消毒した。
「ほら、耳を出せ」
「え、えっとその保冷剤は!?」
「これがないと痛いんだよ」
「なんで!?」
「これで冷やして感覚なくすんだよ」
ほらと手を差し伸べられる。
うぐうう…!
焔真のところにちょこんと座る。そして焔真の手が耳に触れる。思わずビクッと体が揺れた。
「火燐ちゃん怖いの?」
「こ、怖くないし!」
彩兎がニヨニヨしながらいう。くそお、お前だってあけてないくせに!
私が彩兎に向かって叫んでいれば、シュッと消毒液が耳にかけられた。
「ひっ!」
「お前ビビりすぎだろ…」
大丈夫。大丈夫大丈夫! ノープロブレム! 何も問題ない!
私がギュッと目をつぶれば、今度は保冷剤を耳たぶに当てられる。急な冷たさに、また体がはねる。
「お前…怖いならやめるぞ」
「や、やめないで!」
ガシッと焔真の腕を掴む。
それに焔真は驚いた表情をしたけど、私の顔を見て大きくため息を吐いた。
「お前…ガチ泣きじゃねえか…」
「ち、違うもん…! これは違うもん…!」
「ったく…。また今度にするか?」
「うん…」
そんな私を見て彩兎がぶはっと吹き出した。
「あはははっ! やっぱりそうだと思った! やっぱり火燐ちゃんには早いんだよ!」
「お、お前だってあいてないくせに!」
「いや、僕はいつでもあけられるし。そのピアスつけられるから」
軽いドヤ顔しながらいう彩兎。うぐぐ、この野郎!
「お前、でもそれだと俺ともお揃いだからな?」
焔真がそう言えば、ぴしりと彩兎が固まる。
「あ、あー…。火燐ちゃんとお揃いのを買うし」
まぁ野郎2人が同じのなんて嫌だろうなあ…。
でも、ピアスあけたかったな…。
軽くシュンとしていれば、焔真が取り敢えず顔洗って来いというので、洗面所に向かった。焔真は私についてきてくれたけど。
「あけたかったんだけどな…」
顔を洗ってから、軽く耳たぶを触っていれば、焔真がため息を吐いて私の耳に顔を近づけた。
え、何事?
そう思うと同時に、耳たぶにちょっと痛みが。
「いっ!」
「それで痛いんだったら、ピアスもまだダメだな」
「え?」
私が聞く間もなく、焔真は少し笑いながら戻っていった。
なんだろうと思って、鏡に近づいて耳たぶを見てみる。すると、私の耳たぶは、ちょっと赤くなってて…あ、
「あっ!」
ボッと顔が真っ赤になった。
「あ、跡つけやがった…」
痛いに決まってるじゃんかこのやろー…。
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