ザアァァァァと効果音がするように、目の前の光景は、雨。なんていうかさ、今朝のニュースで降るって言ってたっけ…? 持ってこないとか俺クズだよなー…。はははっ…。
 暫く待ってたんだけど、全然降り止む気配しない。

 何で傘忘れたんだろう…。あぁ、今朝寝坊しかけてたから、バタバタしてたから…。

 俺が軽く絶望した表情で、生徒玄関でボーッとしていれば、隣でボンッと音がした。
 この音は、アレだ。傘が開く音。

 バッと勢いよくそちらを向けば、黒い傘を開いている、げんげんの姿。

「神がいた!!」
「は?」

 俺が思わず叫べば、げんげんが少しビクッと肩を揺らしてからこっちを見た。
 多分俺の表情は、キラキラと輝いていたんだろう。げんげんが軽く渋い顔をしてる。でもそんなのお構いなしだ。俺がお願いと手を合わせれば、根は優しいげんげんだから、小さくため息を吐いてから、首を縦に振った。
 ヤッター!! これで濡れずにすむぞー! 男二人でむさいけど、まあしょうがないよね。贅沢言ってられないぜ…。

 お言葉に甘えて、げんげんの隣にお邪魔して一緒に帰る。

「げんげんはどうして残ってたの?」
「先生に呼ばれてたんだよ」
「何で? 説教?」
「お前と一緒にするな」

 失礼な。
 なんて少し頬を膨らませていれば、雨音が強くなってきた気がする。気のせいだと良いんだけどさ。

「ねえねえげんげん」
「あ? 何? 聞こえない?」
「え? なんだって?」

 気のせいじゃなかった。

 雨音はザアアァァァから、ドドドドドという、もはや雨音じゃなくね? というレベルまで来ていた。


「げえええ! めっちゃ降ってきた!!」

 ドザアアアアア! と降る雨に、足元ももうグッショグショであり、俺は思わず叫んだ。いやだってさ!! 何この雨の量! おかしいって!!
 よくバケツをひっくり返したようだ、みたいな言い方をするよね。うん、正しくその通りでさ。けど、そのバケツってレベルではなくてですね。なんか、風呂かな。

 ドザザザザザと、地面にも反射しててもう地面と雨とのダブルパンチわああああ!!

「これ半端ない!! 半端ないよ!!!」
「ちっ。おい優羽。もっと右寄れ」
「え? なに? ミディアムレア?」
「あ? なんだって?」

 お互いにお互いの言っている内容が聞き取れない。

 ちょっ! いきなり靴下死んだんだけど! 冷たい! なんか冷たい!
 うん、あの、ちょっ…! 畜生! いきなり来やがって! ドザザザザアアじゃねえんだよ!! さっきまであんなに穏やかだったじゃねえかよ!

「ちょっ、ここ急に深い水たまりある! 右足死んだ!」
「チッ、一旦非難するぞ」

 という、かろうじて聞こえたげんげんの言葉に、俺たちは近くのお店の屋根の下に避難した。
 うわぁ…ここも音がすげえや。ババババババって言ってる。雨の音ってどんな感じだったっけ。ゲシュタルト崩壊してきた。
 髪の毛もしっとりと濡れていて、軽くギュッと絞れば、パタパタと水が落ちる。
 あーあー…。足元のぐしょぐしょだ…。

「これいつ止むんだ…」
「分かんない…。あ、ごめんげんげん。今でしょのフリだったらゴメン」
「いや良い。つーか、返してたらお前を捨てる」
「ひでぇ」
「つーかお前、ちゃんと拭いとけよ。風邪ひくぞ」

 チラリとげんげんの方を向く。

「……」
「……どうした」
「いや…」

 なんていうか、その…。もう、げんげんは拭いても手遅れかなって…。なんていうか、もう服絞ってんじゃん。絞ってジャーッて大量に水出てんじゃん。それカバンの中もグッショグショでしょ。

「本来の傘の持ち主であるげんげんが俺とは比べ物にならないくらい濡れていてげんげんが俺を濡らさすまいとする優しさが死ぬほどにじみ出ていてとても辛い」

 思わず一息で言ってしまった。
 あれ、なんか目から汗が…。

「……馬鹿なこと言ってんな。お前も濡れてんだろうが」
「あ、やめて。優しくしないで…。俺なんかと。男と相合傘なんかさせてごめん」

 そもそもね、あれだね。げんげんの傘折りたたみだし。折りたたみってちっちゃいじゃん? その傘に175cmと180cmの男が二人入るなんて無理だったんだね。折りたたみって一人でも濡れるのにね。

「ったく。んなのどうでもいい。おら、お前の家に寄ってくぞ」

 確か、げんげんの家の方が学校に近かったはず。

「この期に及んでまだ俺を優先しようとするのげんげん! もう俺走って帰るから!! 解散!!」
「あっ、おい馬鹿待て優羽!!」
 


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