サッカー雑誌や野球雑誌や音楽雑誌。そういう物の雑誌があるように、部活ごとの雑誌も存在していることは、その部活をやっている人しか、あまり知られていない。
 それは勿論、私のやっている吹奏楽でもあるわけで…。書籍であまり目を通してないと思うが、実はいくつかあるのだ。それを部費で買っている学校も、少なくはない。色々と講座も書いてあるし、大会の結果など、注目されている学校の特集など。
 吹奏楽をやっているなら、一度は載ってみたい。そう思っている人も、少なくはないのではないだろうか。

 ま、それは置いておいて…。なぜこんな話をするのかと言われれば…。

「あ、あああ紋が表紙…!!」

 某雑誌を手に取っているが、その手がガクガクと震えていた。
 トロンボーンを吹いていて、貴重な真面目な表情を浮かべている時を、パシャリと表紙になっている。てか、金管楽器吹いてるのに、顔が崩れないって、コイツ本当に羨ましい…。私吹いてる時、絶対に写真撮られたくない。

 これともう一つ。いつも買ってるやつは、いつも通りプロが表紙なんだけど…。それは毎月欠かさず買っている。それで、この紋が表紙のやつは、実はいつもは買ってないのだ。まぁ簡単に言えば、金がないというかね。
 いつも買っている雑誌は、吹奏楽部のための雑誌という感じで、毎月色々な学校の特集もされている。今回は偶々私たちの学校、時羽だったから、こうやって手に取っているのだ。当然、部費で買うのだけど、個人的にも持っていたいから、毎月買ってる。
 しかし、こっちの紋の表紙の方は、簡単に言えば普通の音楽雑誌。最近テレビとかで吹奏楽が話題になってるから、吹奏楽特集みたいな感じなのだろう。

 こ、これを買うか否か…! いや悩むこともないだろう! 吹奏楽の方を手に取れ。だってこっちは普通の音楽雑誌…! 中身は、こうポップスの特集。楽譜はあるとしても、今は必要ない…! だが、だがしかし!

 一人で悶々と色々なことを考えていれば、ひょっこりという効果音がつきそうな感じで、肩から顔が覗いた。

「まだ買ってないの?」
「うぎゃああああ!」

 急なことに、まだ売りものであろうに、手に取っていた雑誌で、肩の所にその雑誌をぶつける。
 バアンと音がしたが、相手は無言だ。
 チラリと横目で見れば、覗かせていた張本人、紋は少しむすっとした表情で居た。あ、手で顔を防いだのか…。

「これまだ売り物でしょうが。買わなきゃだよ」
「え、あ、あー! そうだね!」

 偶々裏表紙だったからか、紋は私が手に取っていた雑誌が何か分からなかったらしい。
 良かった。これで、買う言い訳は出来た気がする。
 い、いや決してね!? 紋の表紙だから買うとか、そんな訳ではなくてだね…!!
 少しグルグルとした思考のなか、目を泳がせていれば、紋はにやっと笑みを浮かべた。


「どうしたの? 朱理ちゃん」
「べ、べべべ別にっ…!」

 私がレジの方に歩いていれば、そのすぐ後ろにくっつくいてくるように歩く紋。うぐぐ…! 絶対面白がってるこいつ…! 腹立つー…っ!!

「これお願いします…」
「はい。あ、これ少し折れてますね…違うものに…」
「あー良いです。この人がやったんで」

 紋くっそやろぉぉ…!! 事実だけど…!
 軽くイラつきながら、首を縦に振れば、店員さんも苦笑いだ。くっそー…。
 ピッとバーコードで読み取ってから、値段を口にするので、そのお金を私が財布から出そうとする。
 すると、ボソッと後ろから声が聞こえた。

「あれ、朱理ちゃんって、この雑誌買ってたっけ」
「ぅえ?」

 バッと紋の方を見てから、直ぐに本の方に目を向けた。

 雑 誌 が 表 紙 に な っ て い る !!

 まぁ、何が言いたいかって、まあ表紙の人物が隣にいるってことね。って、それはもう分かってるから良いんだよ。

「……う」
「う?」

 軽く私が震えながら、思わず漏らした言葉に、紋が疑問げに言葉を返す。


「うわあああああああ!!」
「はっ!?」

 私が叫べば、紋も急に叫ぶと思ってなかったのか、めちゃくちゃ驚いて少し間抜けな表情になった。
 そしてそんな紋に向けてバックを投げつけ、それを紋が何とか受け止め、私はお金をカウンターに置き、雑誌をかっさらって走り逃げた。
 この間、3秒である。

 み、見られた…! 対して興味を持ってないはずの雑誌を買った…! その雑誌の表紙が、見られた人物のものだったのを…!
 恥ずかしい…! 恥ずかしい恥ずかしい!!

 あっ!! 900円の雑誌に1000円出した! お釣りがっ! あぁ!! バックが!!

「も、もうヤダ…」

 思わずヘロヘロと壁にもたれかかって、思わず地面に膝をついた。
 ふっ…。今頃紋は笑ってんだろうよ…。あとお釣りを自分のものにしてんだろうよ…。泣いてない、泣いてないさ。これは汗だ。
 一人で自称気味に笑みを浮かべていると、

――ドスンッ

「うっ!」

 と背中に衝撃が後ろから来て、変な声を出してから、そのままベチャッ前に倒れた。
 い、いったー…! こう突っ込むかのような勢いで、後ろから攻撃された…!
 思わず背中をさすれば、続いて頭にドスンと衝撃。

「ぎゃんっ!」
「あははっ、犬みたい」
「なっ!!」

 ムカっと来て上を向けば、紋がけらけらと笑っていた。
 
 私は暫く紋を睨みつけたが、直ぐにハッとして立ち上がって、その場から去ろうとする。あ、勿論カバンを忘れずに。

「まぁ待ちなよ」
「ぶっ!」

 立ち上がって足を動かした瞬間に、私の両足首を掴まれて、見事に前に倒れた。
 ビターンッて言ったよ!? 顔面打だよ!? めっっっちゃ痛い!!

 軽く涙目になりながら顔をさすっていれば、紋が私の前に来て、笑みを浮かべながらしゃがみこんだ。

「さぁさぁ。何であんなことをしたのか、逃げるのかお兄さんに話してみようね」
「くっ…!」

 思わずぐーで地面を叩く。
 逃げられない…!

 私は諦めて、のそのそと体を起き上がらせて、その場に座った。

「だってさ、恥ずかしいじゃん?」
「何が?」
「お、おおお前が表紙の雑誌を! 隣で買うってのが!」

 軽く顔を赤くしながら叫べば、彼は首をかしげた。

「何で買うの?」
「え?」

 今度は私が首をかしげた。

「だって、今日買った雑誌あれじゃん。君の買ってるやつじゃないじゃん」

 何で人の買っているものを理解してるのか。なんて気にしたら負けだな。
 軽く悟りながらも、もっと顔に熱が集まるのが分かった。

 だっ、だってさぁ! それって、もう相手に普通買わないものを買う。それが自分が表紙だから。って分かってるようなもんじゃん!

「そ、それは!」
「うん」

 うぐっ…! めっちゃ良い笑顔…! 悔しい! 全て見透かされている…!

「あんたが表紙だったから! あとでからかってやろうと思ったからだ! バァカ!」

 私がそう叫んでから、ドスドスと足を進めれば、後ろから軽いため息が聞こえた。

「全く。ひねくれてるねえ」

 お前に言われたくないわ…!
 軽く怒りながらいても、直ぐにその本人が隣に来るわけなんだけどさ。

 ぜってー、この表紙に落書きしてやるんだから…!



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