シュゴオオォォと、手元の何とも言えぬ黒い物体から、音が出ていた。

「いやいやいやおかしいだろ!」

 白夜のツッコミが綺麗に決まる。
 そんなツッコミをされた、黒い物体を持っている当の本人、朱理はいい笑顔で立っていた。

「お前さ、普通の料理は出来るよな! 得意料理は肉じゃが、っていうレベルだよな!」
「おうよ。肉じゃがなら任せろ」
「じゃあなんでお菓子作りはそんな苦手なんだお前は!」
「こっちが聞きたいわ!!」

 白夜が叫べば、朱理も負けじと叫び返す。
 ジリジリと、お互いに距離を縮めたり広めたりする。まるでカバディだ。

「畜生! こんなもん、白夜にくれてやるぅ!」
「うわああ! やめろ!」

 白夜が何とか手で顔を覆い、自身を守ろうとするが、寸秒で間に合わず、白夜の口の中に黒い物体が入る。
 その瞬間に、白夜は膝を崩し倒れた。

「恐ろしい威力ですよね。本当に。貴方のは」
「失礼だなあお前も」

 椅子に深く座り、脚を組みながら呟いたのは玄眞。本を読みながらだったが、嫌でも視界に入っていたさっきの出来事に、口を挟まないわけにはいかなかった。
 さっき言った通り、朱理は普通の料理は出来る。しかし、お菓子作りとなると、どうもうまくいかないのだ。本人は何故か分かっていないが、傍から見れば丸分かりの理由がある。

「大体アンタは、火加減というか、そういうのがなってないんですよ」
「だってチマチマとさー、火を使うの嫌じゃん?」
「それだから上手くいかないんだ」

 首を傾げながら言う朱理に、ズバッと玄眞が答える。
 食べる? と黒い物体を差し出すが、お断りしますと断固拒否した。

「お菓子作りでも、練習したらどう?」

 代わりにと、白夜が作ったクッキーを食べながら言う。因みに、朱理が作ったのはクッキーだった。(二人共家庭科の授業で、同じレシピで作ったものなのだが)
 ちょうどここに専門が居るし。と、白夜を顎で指す。
 未だに白夜は気を失っているが。
 朱理が白夜を揺さぶれば、白夜は少し呻きながら起き上がる。そして、今さっき玄眞が話したことを、もう一度説明する。

「え、うそ。俺に拒否権ないの?」
「ないね」
「青也ー! 助けてー!」

 実はさっきから、生徒会室の奥で、資料を作っていた青也に、悲痛の叫び(助け)を上げる。

(気づかれた…)

 心底嫌そうな顔をした青也に、白夜は知る由もなく、助けを求める。

「……俺も、料理は苦手だから」
「そう言えば、青也は苦手だったね」

 玄眞が思い出したかのように言えば、白夜がポツリと呟く。

「お菓子作りはできたよな」

 ピシリと青也が固まる。それを白夜が逃すはずもなく、青也を逃がすまいと肩に腕を回す。
 几帳面な性格である青也は、お菓子作りのように、分量をきちんと測り、レシピ通りにすればできることは、上手く作ることができる。
 しかし、少し勘が必要になってくる、料理は苦手なのだ。

「よーし! じゃあお菓子作りだ!」
「うん。桜餅が食べたいな」
「は? あれはもち米を水に浸けとかなきゃダメだろ」
「大丈夫、してある。2時間」
「なんでそんな準備万端!?」


*****


 調理室に向かえば、本当にテーブルにもち米が置いてあった。しかも水に浸けてある。

「なんでだよ」
「なんででしょうね」

 白夜と玄眞の言葉を無視し、朱理は手を洗い始める。青也がそれを眺めていたが、朱理の説得され、一緒に手を洗い始める。
 白夜も渋々と手を洗い始める。勿論、それぞれエプロンと三角巾も忘れずに。

「じゃー頑張るぞー!」
「あー俺やっぱりやだよ…。ぜってーアイツ、新しいものオンギャーさせるもん」
「そこはお前が頑張れ」

 俺は見守っている、と青也が呟くが、白夜は冷めた目で青也を見る。



「嫌だぁー!!」

 突然聞こえた叫び声に、一同動きが止まる。叫んだのは、調理室に入ってきた黄蘭だった。

「玄眞君が『桜餅食べる人ーヽ(・∀・)ノ』って呟いたから来たのにー! 朱理ちゃんが作るなんてー! 食材がかわいそうだよー! 止めたげてよぉー!」
「いつの間に呟いてたし」
「作るぞーと張り切ってた際に」

 うわああああ! と黄蘭が地面に這い蹲りながら泣き叫んだ。

「ま、うまく作ってね」
「後でボコボコにしてやるね」

 けろっと直ぐにテンションを変えれば、朱理も思わずイラっとする。
 そして直ぐに、黄蘭を誰かが蹴っ飛ばした。

「地面に這いつくばってないでよ。汚いわね」
「紫恩さんも来たんですね」
「まあね。見守ってようと思って」

 いつの間にか集合していた生徒会に、一気に調理室が騒がしくなる。
 白夜が準備を終えれば、直ぐに朱理も作り始める。今回は電子レンジで作れる、という白夜が知っている簡単なものにした。

「ぜってー余計なことすんなよ」
「うぃ」
「白夜君ちゃんと見張っててよ!」
「あ、結構いろんな人から反応がある…」
「お前がツイッターやってるとか意外だよな」
「あたしもやってるのよ」

 玄眞のつぶやいた内容に反応して、色々な人が遊びに来るのは、また別の話。






――――――

季節感とか、時間軸おかしいとかのツッコミは無しの方向でお願いします(後で気づいたバカ)
 


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