※途中で女子特有のアレ系のネタが入っていますので、ご注意です!
男女の差、というのは、歳を増すごとにハッキリと分かって来るものだ。それは力であり運動神経だったりが主だが、大抵はそれこそ「男女の差だからしょうがない」と感じると思う。
しかし、それをコンプレックスに感じる人物も居る。それが、僕の幼じみである。
彼女はトランペットを担当しているが、息の量や肺活量で主に決まってしまう金管楽器は、男女の差がハッキリと出てしまう。これだけだと少しパッとしないから、少し例え話をしてみるね。
君は、自衛隊やプロで女性のトランペット奏者を見たことがあるかい?
あるにはある、という人もいるかもしれないけれど、それはたいてい数回だと思う。それに反して、ヴァイオリン奏者は見たことがある、という人は多いんじゃないかな?
つまりはそういう事。
僕は男だから、女の子のそういう辛さなんて分からない。でも、そうやって男女の差で、目指したい道がどんどん狭くなっていくというのは、やっぱり辛いんじゃないかなってのは思うよ。
『今日の体育 体力測定』
そう言えば、教室の後ろにある教科連絡の黒板に、そう書かれてあった。
体力測定ねえ…。だから今日は体育がつながって、今日の物理が明日に回されたってわけね。あーあ、面倒くさい。さっきの1限は握力、腹筋、立ち幅跳びとかそういう系。そして今、2時限目は
「よーしお前等、今日は持久走をやるぞ」
「えー」
「次、えーっつった奴体育1にするからな」
持久走だ。
文句言うだけで1とか、いじめだ。
「あー、やだやだ」
「どしたー千束」
「持久走面倒くさいなって」
「あー、確かに」
僕が呟けば、日暮君が笑いながら賛同してくれた。
「ね、飛騨君もそう思うでしょ」
隣でしゃがみ込み、靴紐を結んでいる飛騨君にそう問いかけた。彼はチラリと僕を見上げたが、そのまま視線は足元に戻り、紐を結び直す。
「これも授業の一環、仕方ないでしょう。文句言わずに走りなさい」
「相変わらずマジメくんだよね」
そういうところは苦手だね、全く。
結び終えて、軽く準備運動をしている飛騨君を見て、ピンと閃いた。
「ねえ飛騨君。持久走って僕一人だと絶対サボっちゃうんだよね。だから僕の見張りを兼ねて一緒に走ろうよ。得意でしょ? 陸上部だし」
「は? なんで僕が」
すごく面倒くさそうな顔してるよこの人。
まあまあ、一緒に切磋琢磨しようよ。と言えば、女子じゃあるまいし、と返される。うわあ、面倒くさい。マジメくんはこれだから苦手だよ。嫌いではないよ? ただちょーっと苦手だなーって。
「ふーん、良いのかな、目を離すと僕サボっちゃうよ?」
「それは自分の成績に関わりますよ」
「まあまあ最後まで話を聞いて。まあそれでサボって、あの人に悪戯しに行っちゃうけど」
「あの人?」
「決まってるじゃない、君のお姉さん」
飛騨君の体がビシッと固まった。ふふふっ僕の情報網を舐めないでいただきたい。なーんて、それは冗談で…。ちょっとこの間悟っちゃったんだよねー。ははっ面白い。なんだかんだ言って、飛騨君はお姉さんを大切にしてるの知ってるし。ツンデレってやつ?
まあ兎に角、僕がそう言えば彼はガシッと力強く、二の腕を掴んできた。
「良いでしょう。一緒に走ってやる、来い」
「あ、あはは。ありがとう…そして痛い」
腕がギリギリ言ってる。どんだけ握力強いのこの人。そして敬語崩れてる。
「よし、位置につけー。ちんたら走るんじゃねえぞお前等ー」
先生の声で、皆が横に並び、人数が多いから数列にはなってるけど。そんな中、僕と飛騨君は一番前にスタンバッた。
「おいてかないでよ? 飛騨君」
「分かってますよ」
「んじゃ、よーい」
ピーッ
笛の音が鳴った瞬間、隣の飛騨君は足を踏み出した。僕も続けてゆっくりと足を踏み出した……
と、思った?
ダッ!!
僕は勢いよくかけだした。
「!!? な、千束っ!!?」
後ろから飛騨君の怒鳴り声が聞こえる。僕はクスクスと笑いながら後ろを振り向き、取り敢えずごめんねと謝った。
「飛騨君が出だしからそんなに遅いとは思わなくてー。やっぱり僕のことは気にしないでゆっくり走って良いからね。」
語尾に星が付きそうなテンションで言えば、彼は漫画で言うと白目表示な感じの表情だ。キャラが崩壊してる。
陸上部ってのも大したことないんだねー。と言えば、ブチッと飛騨君から切れた音がした。
「こんのっ…!」
彼が腕まくりをし、一歩を勢いよく蹴った。それを脇で見ながら僕も走る。
「待てこのクソ性悪! お前最初から置いていくつもりだっただろ!!」
「えーなんのことー? ワーカーンーナーイー」
「冗談抜かすな! 待て!」
「あははは。捕まえてごらんなさ〜い」
「黙れ!!!!」
僕は笑いながら、飛騨君は怒りながら、僕たちはグラウンドを走った。一応吹奏楽でも結構走るからね、体力には自信あるし。
それにしても、さっきから飛騨君のキャラがぶっ飛んでいるんだけど大丈夫かな。原因の僕が言っていいのかって話だって? 僕にそんなサービス精神ないよ。
「おー、千束と飛騨良い走りっぷりだな。女子もあいつらを見習って走れよー」
「えぇ…。アイツ等、絶対これ百m走かなんかと勘違いしてるでしょ」
「あの二人の体力は無尽蔵ですか」
飛騨ちゃんと凛堂ちゃんがそんな会話してるとは知らず、暫くしてから持久走は終了した。
当然、ただ笑いながら走った僕と、ずっと怒鳴りながら走った飛騨君では疲れ様も違い、走り終わったあと、流石に陸上部で長距離とはいえ、飛騨君は苦しそうに座っていた。
「僕にはもう、千束が分からない…」
「まあまあ水憐。テスト勉強? 大丈夫、僕も全然やってないから。とか言いつつ勉強してて満点を取る。それが千束紋だろ」
「典型的な嫌な奴だな」
「何を今更」
「人聞き悪いこと言わないでくれる?」
「それより水憐。お前キャラが」
「おっと…」
日暮君と飛騨君が話しているうちに、女子がスタートしたようだ。先頭の方に飛騨ちゃん、上の下には早緑ちゃん。さすがあの早緑先輩の妹だ。飛騨ちゃんはきっと後半にバテるな…。中盤に凛堂ちゃん。
そして、下の方に朱理ちゃんが居た。んー、もう少し前の方だと思ったんだけど。ま、疲れでも溜まってるのかな。
そして持久走が終わり、女子グループのみんながフラフラと日陰に向かってくる。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
「おつかれー」
数人と軽く会話をしていれば、タオルで汗を拭きながら、朱理ちゃんが歩いてきた。
「珍しいね。下の方とか」
「……うるさい」
彼女はぐーで殴ってこようとしたけど、それは難なく受け止めた。
「今日は調子悪かったの」
そう言って不貞腐れながら、いつものメンバーの方に向かっていった。
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