「吹奏楽部部長、雀部朱理です。これから宜しくお願いします」

 彼女が声を張り上げてそう言い、頭を下げれば周りから拍手が聞こえる。それに続いて僕が挨拶をして頭を下げる。二人で顔を上げれば、そこには新入部員たち。

 入学式から日が経ち、新一年生が入り新たな部活として、全ての部活がスタートする。

 見たところ去年よりは少ない、か。もう少し入ってくれたら嬉しかったんだけれど…。中等部から上がる子ばかりだし。もし違ったとしても、一応名門校だから期待してたんだけれどね。それに人数が足りないと、少し不利だし…。何せ僕たちには先輩がいない…。

「それじゃあ、今日は取り敢えず自分の希望する楽器を回ってください。これが終わっても一年は残っててね。んで二年生は自分たちが使用していない楽器を用意しておくこと。
あ、一年生で自分の楽器を持ってる子居るかな? そういう子は優先させるようにしているから、持ってる子がいたら後で来てください」

 その後も色々と説明し、朱理ちゃんが解散、と言えば二年生は皆素早く行動する。僕は副部長だから残っていたけど。ボーンは同学年の子に頼んでおいた。
 それを確認してから、彼女は一年生の前に立つ。

「えっと、まず最初にこの部活を選んでくれてありがとね。先に言っておくけれど、吹奏楽部は休み無し、と思ってもいいくらいです」

 そう言えば、一年生が少しざわついた。

「それに中途半端な目標は立てません。全国へ行くじゃなく、全国で金を取る、を目標にしています。それでも付いてくる人、やる気がある人のみ、この後楽器を回ってください。無い人は今更申し訳ないけれど、部活変更してください。
以上」

 朱理ちゃんがそう言えば、一年生の目の色が変わったような気がした。
 うん、やっぱりここにいる人たちはやる気があって来たんだ。それが分かっただけでも収穫かな。
 上手さは今の時期は関係ない。やる気のある人だけ伸びていく、それだけだ。
 やる気のない人は、上手くならないし、大会に出場させることもない。それだけは分かって欲しかった。

 それは、僕がよく知っている。そうやって僕は朱理ちゃんによって痛い目に合わされたからね(物理的に)

 そして一年生が動き出したとき、僕は朱理ちゃんの元に向かった。

「ねえ、今度の依頼演奏の件なんだけど…」

 僕がそう言えば、朱理ちゃんは顔色の悪そうな表情でぼーっとしていた。

「何ボーッとしてるの」
「えぁっ! ごめん!」

 少しため息を吐いてから、僕は話の続きをした。
 うん、放課後、お邪魔することに決定。



*****




「進路ってもう決めてる?」

 パチクリ、という効果音が出そうな感じで、僕は瞬きをした。

「どうしたの朱理ちゃん。急にそんな事を」
「いや、ただ気になって…」
「うーん、まだ決めてないよ」

 危ないことかもしれないけどさ。そう思いながら、僕は未だに出ているコタツに入りながら、野菜ジュースをストローですすった。
 今現在、雀部家に遊びに来ていた。もちろん勝手に。遠慮なしに。

 それは兎も角…。そうか、もう高校2年であれば、まだ春先、とは言えない。そろそろ考え始めないといけないか。
 専門学校なら、早いところだと来年の6月からAO入試が始まる。それに臨む人は、今から準備をし始めなくてはいけない。進路なんてまだまだ、なんて言ってられないのだ。もう目と鼻の先、もう決め始めなくてはいけない時期だった。

「皆はもう決めてるのかね」
「皆って?」
「火燐とか…って、あの人たちはもう決まってるようなものか…」

 あとは…。と、指を折りながら、おなじみのメンバーの名前を挙げていく。

「どうだろうね」
「何か青也は絶対大学行きそう」
「まあ部活でも活躍はしてるしね。頭も良いし」
「玄眞も大学かなー。文化系に進むイメージ。白夜は何だろうね」

 ケラケラ笑いながら言う彼女だけど、顔は正直不安そうな表情をしている。まあ当然っちゃあ当然か。成績は良いわけではないし。

「紋は?」
「僕? 僕も決まってるようなもんでしょ」

 家がそういう薬剤の系列なんだから。僕もそういう能力を持って生まれた。もう道は決まってるも当然だ。

「で、そんな話題を振ってきた朱理ちゃんはどうなわけ」
「え」
「ま、口ぶりからすると、まだ決まってない、もしくは迷ってるーどうしようーって感じかな」
「う、うるさーい!!」

 別に良いんじゃないの。まだ決まってない人だって沢山居るわけだし? 確かに早く決めたことに良したことはないけど。早く決めてから、あーやっぱりあっちにすればよかったー、ってなるのもアレだろうし。

「前言ってたじゃない。自衛隊、もしくは公務員の演奏者になりたいって」

 だから音楽科選んだんでしょ。
 僕がそう言えば、彼女はぴくりと反応する。
 ……あー、成程ね。

「何かあった?」
「……男子はずるいなって」
「はあ? 何いきなり言い出すの」
「何でもない!」

 彼女はそう叫ぶと、同時にコタツから飛び出した、が…。

「?」

 彼女は立ち上がると、軽く絶望的な顔をしてから足元を見る。
 足元に何かあるわけではいけど、何かあったかな…。

「最悪だ…」
「何が」
「……ごめん、トイレ行ってくる」

 いや、君の家だし。自由に行ってきなよ。
 そう思いながら彼女を見送る。



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