あの日はもう戻らない

 さて、ただ今合宿3日目は自由時間。
 ということで、各自体を休めたり、近くにあるところを遊びに回っている。そんなあたし達は、外にいた。
 ゆう君とげん君は外でバスケをしている。この合宿に来る前にもバスケやってたのに、好きだねえ…。と他人事のように思う。いや実際に他人事ですけど。

 一人でぼーっと河原のあたりで座っている。因みに目の前の河原の向こう側でバスケをしている。
 あっちゃんと出会ってからひと月くらいしか経ったけれど、その間1人になることなんてほぼ皆無だったから、それまでいつもどうやって1人の時間を過ごしていたか、どうにも忘れてしまっていた。
 人間は忘れる生き物なのだと、改めて思う。

「あ、」

 座っているところから少し体を伸ばし、遠くを眺めるようにする。
 向こうを見れば、ゆう君がシュートを打とうとすれば、それをげん君がジャンプして防いでいた。そしてそのままげん君が攻めに変わる。
 二人の髪が、太陽に反射してキラキラと光っている。
 しばらく見ていたら、軌道をそれたボールが私の方――河原へと飛び込んでいって、バッシャーンと水が跳ねる。

「げんげんー! 何やってんのさー!」
「お前がきちんと止めればよかっただろう」
「ゆっきー濡れてないー?」
「うん大丈夫ー」

 ばしゃばしゃと川に入りながら、必死にボールを拾うゆう君。それを河原で眺めるげん君。そしてそんな二人を眺めるあたし。
 何なんだろうこの光景…。

 そのあとすぐにゆう君は戻り、再び2人でバスケを再開する。

「平和…」

 ポツリとつぶやくと、バサバサッと羽の音がする。
 何だろうと上を向けば、とある人物が居た。

「あれ、十知君」
「こんにちは」

 ニコリと笑みを浮かべながら、あたしの横に腰かけた。

「今羽の音しなかった?」

 もしかして空飛べんのかな。なんて思っていれば、彼は少し苦笑いして答える。

「カラスでも飛んだんじゃないんですか?」
「でもかなり大きな音だったし…」

 何だったんだろうなぁ…。
 そう思っていれば、あたし達の間に何かが羽音をたて、降りてきた。

「うわっ!」

 思わず仰け反ってしまう。だって、そこに居たのは…。

「わ、ワシ!?」

 でかっ! 大きい! てかワシって危なくないの!?
 一人で混乱していれば、十知君はワシをまじまじと眺める。おお…すごい、動じてない…。

「これはオジロワシですね…。しかし、このワシは冬季に北日本に飛来するはずなんですが…」

 何でそんな詳しいんですか! なんて思っていると、あろうことか彼はワシに手を伸ばした。

「ちょっ! 危ないよ!」

 あたしが静止をかけるのも関係なし。彼は普通にワシに触れた。彼はワシの嘴の下を撫でたり、背中を撫でたりしていた。
 え、えぇぇぇ…。ワシってそんなに人懐っこいかな…。そう思ってあたしが腕を伸ばすと、ワシが羽を広げて威嚇してきた。
 ひい! と情けない悲鳴を上げて腕をひっこめる。な、何なのよぉ…!

「あ、北村さん…手の甲切れてます」
「あ…うそぉ…」

 引っ掻かれたかな…。あたしなんかが触れるなってことね…。とほほ。

「少し医務室行ってくるね」
「場所分かりますか?」
「うん、大丈夫。ありがとう」

 あたしがそう言って立ち上がり、向かおうとしながらそっと後ろを振り向く。あたしを引っ掻いたワシは十知くんに懐いている。よく見ればそこらへんのハトもやってきて、十知君に懐いている。
 何だろう…十知君モテ期? 本人は少し苦笑いだけど。

 そう思いながら、あたしは医務室の方へ向かった。



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