踏み出せ、一歩!

 合宿2日目の夜。
 昨日のときは普通の体育が長引いた感じだったのに、今日はそうもいかなかった。
 夕食を摂りに食堂へ来たあたしだったけど、あまりにもグロッキー過ぎて夕食どころではなかった。

「あ、彼? 友達って」
「あ、うん…」

 テーブルに突っ伏すあたしの横で夕食を食べていた彼が、片手を上げる。
 直後にぱたぱたと軽い足音が聞こえてきて、すぐに聞き慣れた声が耳に届いた。

「北村さん…。こちらの方は?」
「あ〜、そういえば初めてだよね。昨日今日ペアを組んでいた人」

 十知君の問う声に、あたしが彼を手で示す。すると、彼は立ち上がって十知君に手を差し伸べる。

「はじめまして。オレも時羽の生徒なんだ」
「そうなんですか。俺は、酉海十知と申します。すみません、お名前をお聞きしても…?」
「オレは…」

 再び彼が名乗ろうとすれば、後ろからあっちゃんが歩いてきたので、あたしが腕を振りながら声を上げる。

「こっちこっち!」
「由希さん。酉海さんもお揃いで…」

 そう言ってあっちゃんの目が、彼の方に向く。
 すると、彼はじっとあっちゃんを見てから、口を開いた。

「ねぇ、君。きょうだいって居たりする?」
「え? いえ、居ませんが…」
「あ、そうだよね。気のせいだったみたいだ。ごめんね、変なこと聞いて。じゃあ、オレは先に失礼するよ」

 彼はお盆を持って立ち上がり、片付けに行った。
 それを見ていたあたしの隣に、あっちゃんが腰掛ける。

「あの方は…?」
「あぁ…。昨日と今日ペアを組んだ人なんだけど…」
「お名前は…?」
「あ、」

 あたしが声を詰まらせると、十知君とあっちゃんが苦笑いを浮かべた。
 うわあ…。明日、聞こう。会えたらだけども…。
 そう決め込んで、ご飯をもそもそと口に運んだ。

「あ、おおーい、アリスちゃーん! ゆっきー!」
「あ、ゆう君とげん君だ」

 ゆう君はお盆を片手に持ちながら、大きく手を振っていた。おおう、こぼさないでね…!
 そう思っていたけど、いらない心配だったらしく、そのままこちらに向かってきた。

「ゆっきー、今日は大変そうだったね」
「うぐっ!」

 ゆう君達は今日から参加して、ゆう君はあたしと同じ所でやっていた。
 因みに、あたしが受けてきたのは能力のパワーアップを図るトレーニングだったけど、能力を知る訓練(座学)ではいきなり当てられて、それで分からないと答えたら、先生(?)の女性にチョークをぶつけられた。使う訓練では能力がうまく使えず、走り込みをさせられたり…。

「ってな感じで、何やっても上手くいってなくて…」
「訓練不足だろうな」

 盛大な溜息を吐くと、説明してる間にやって来たげん君にそう言われ、あたしは更にげんなりした。

「なんか全然うまく使えるようになってないし…。ごめん…せっかく合宿誘ってくれたのに…」

 肉体的にも精神的にもダメージが大きくて、ネガティブ思考がどんどん加速していく。
 こんなんじゃまた心配をかけてしまうと思っても、溢れだした弱音は止まってくれなくて、どんどん口から漏れだしていってしまう。


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