手段は言葉だけじゃない

「こらああぁ! 優羽ぅぅ!」
「なぁにー、げんげんどうし」

ゴッ!

「だんっ!」

 朝、教室にげんげんが怒鳴りながら入ってきたかと思ったら、行き成り飛び蹴りを食らわされた。俺はそのままゴロンゴロンと教室を転がる。暫くしてから、机に当たり、何とか止まった。
 その後、俺の方につかつかと歩いてきて、無理やり俺の襟を掴みあげる。ヤバイヤバイ、足浮いてる。げんげん腕力強すぎじゃない?

「お前の罪を言ってみろ。そうすれば軽くなるかもしれない」
「げんげんのチャリンコ勝手に借りました」
「よし、蹴る」

 再び勢いよく蹴られ、俺は悲痛の叫び声を上げた。




「ったく、おかげで俺は今日遅刻寸前だったわ。今度やったらた、だじゃおかねぇからな」
「ごめんごめん」
「反省してねぇじゃねぇか」
「いひゃい」

 思いっきり頬を引っ張られ、つねられる。滅茶苦茶痛いです。俺が少し涙目でいれば、げんげんは渋々と手を離す。そして抓られたところを、少しは痛みが和らぐようにと頬を撫でる。

 げんげんは怒りっぽい。短気だ。
 と言うのもあるかもしれないけれど、そう言うよりも間違ったことが嫌いで、それに強く反発することができる、と言ったほうが正しいかもしれない。
 げんげんとは小学3年くらいからの幼馴染で、何かと一緒にいた。
 小さい頃、何が原因だったか忘れたけど、俺が軽く虐められてた時に、げんげんは相手に勢い良く飛び蹴りを食らわせて、俺を助けてくれたことがあった。
 だから、表では声に出さないけれど、俺はげんげんを尊敬している。まぁ実際に能力を先に使えるようになったのも、げんげんだし。

「今日、火曜だが、お前この間のようなヘマはするなよ?」
「う、うん分かってるさ。水憐先輩怖いもん」

 分かってるなら良い。そう言って俺の頭を乱暴にグシャグシャと撫でる。おかげで身長差とか手の大きさとかの違いを痛感するんだけどね。ぎりっ。

 俺達がそんな会話をしていれば、アリスちゃんとゆっきーが楽しそうに会話をしながら教室に入ってきた。

「アリスちゃーん!」

 俺がアリスちゃんに駆け寄れば、ゆっきーが軽く引いた顔をし、アリスちゃんは無表情で俺を避けた。
 酷いよ! 俺の扱いが酷いよ!

「北村。今日火曜だが大丈夫なのか」

 げんげんがそう言えば、彼女は一瞬ポカンとした表情をしたが、直ぐに顔が真っ青になる。

「いやー! 今日だったっけ!」
「今日だ」
「無理無理無理! 今日水曜日だと思ってた…って時間割もミスったぁぁ!」

 頭を抱えて、軽くヒステリックに叫ぶゆっきー。まぁ、能力が上手く使えないって聞いたし、まだ怖いんだろうなぁ。
 それにしても、今日を水曜日だと勘違いだなんて、俺でもやったことがないよ。あ、やっぱり有ったかも。自分のこと棚に上げてしまった。

「ま、頑張るんだな」
「ひ、酷い!」

 げんげんに軽く笑われながら言われ、ゆっきーはショックを受けた表情をする。
 でも、げんげんが笑みを見せるなんて珍しいなぁ。俺なんて、であって二週間は見れなかったのに。小さい頃でも。

「西野さん。それは嫌われてるのでは」
「ダメ! それ以上は言ったら駄目だ! てかアリスちゃん勝手に読んじゃ嫌っ!」

 軽く憐れみの目で見られながら、俺は首を横に振った。



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