はじめての落とし穴

「あっちゃん、あっちゃん…」

 あたしはゆっくりとあっちゃんに近寄る。あっちゃんはあたしを見て、どうしたのかと聞いてきた。

「昨日の夜、怖い番組見た?」
「見ました。あれは少し怖かったですね…」
「俺も見たー。あれは8時からやっちゃダメだわ」
「だよねー。あれはもっと深夜にやるべきだよ」

 まだ怖いもん。
 なんて、昨日の夜にやっていたホラー特集の話でこのクラスは持ちきりだ。ゆう君も見ていたようで、あの急に出てるところだとか、どう考えても無理な内容だとか、クラスの子も皆言っている。
 すると、げん君が少しいつもより遅れて教室に入ってきた。それにゆう君が気付く。

「あ、げんげん! げんげんも見た!? 昨日の8時からの怖いやつ!」

 すると、げん君は一瞬眉間の皺を濃くして、あぁと思い出したように声を漏らす。見たけど、と答えればあたしとゆう君が怖かったよねーっと同意を求める。

「はぁ…? アレが? ただでかい音でビビらせてただけだろ」

 あたしとゆう君が笑顔のまま固まる。あっちゃんは相変わらずの無表情だけど。
 な、何かさっきまで騒いでいたあたしが馬鹿みたいだ。いやでも本当に怖かったんだ! 何で春先にこんな怖い番組をするのかと、クッションを抱えたまま見ていたのに…!
 すると、げん君が男子に呼ばれたので、そちらの方へ向かう。
 
「よく怖くないよねー」
「東堂さんそう言うの得意そうですもんね」
「げんげんって虫も平気なんだよ」
「へぇー、怖いもの知らずだね…」

 あたし、虫もホラーも、全部苦手だよ…。
 あたしが軽く涙目で言えば、あっちゃんとゆう君二人して、あたしらしいと言った。う、うぅん。それはどう反応したらいいのだろうか。
 暫くしてからげん君も戻ってくると同時に、ゆう君のポケットから携帯が鳴った。

「あ、マナーにするの忘れてた」
「授業中に鳴ったら取り上げられてたぞ」
「う、うるさーい!」

 げん君が軽く笑いながら言えば、ゆう君が携帯を持った腕を上に振り上げた。それにげん君は一瞬ビクッと目を開いて驚いた表情をする。
 ……ん?

「西野さんが急に腕を振り上げるから、東堂さんが驚いてますよ」
「えっ俺の所為!? ご、ゴメンねげんげん!」
「あ、あぁ。大丈夫だ。…って、急にやってんじゃねぇよ」
「ひどっ! 大丈夫って言ったのに!」

 げん君がゆう君に思いっきり蹴りを食らわせた。ゆう君は軽く涙目である。不憫…。

「それにしても、ゆう君のキーホルダー可愛いね。猫?」
「え、あーそうなんだ。昨日帰りに買ったんだよ」

 可愛いだろー。と歯を見せながら笑うゆう君に笑みがこぼれる。ふとげん君を見れば、ゆう君を睨みつけているように見えた。
 な、何だろう。昨日二人は一緒に帰ってなかったから、怒っちゃったのかな。いや、げん君に限ってそれはないか。

 じゃあ、やっぱり…。

 なんて考えていれば、予鈴が鳴って、慌てて席に戻った。



← / 





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -