もっとずっと単純なことだよ

 ここ最近の怒濤の数日間は一体なんだったんだろうか。

 時羽に入学してから、しばらく経った。クラスの子も皆良い子で、新参者であるあたしにも、何も気にしないで話しかけてくれる。まぁ、学生の本職である勉学は、さっそく躓きそうで、さっそく泣きそうです。なんて。

 そう言えば、この間の体育は、あたしの願いでも届いたのかすぐに終了した。いや、時間ではなく、感覚的に、だけど。因みに、ドッヂボールは4組が優勝していた。あれだ、彼がいたクラス。武関玄眞君と、竜峰青也君の居たクラス。かなりの最強布陣でした。だって、あたし達と対戦したとき、圧倒的な威圧感などで、なにも出来なかった。それに、あの時言っていた、西野君の負けない、という意味も、全く理解できないまま終わってしまった。

 まぁ、それは一旦置いといて…。いや、良くないかもしれないけれど。スルーして欲しい。
 授業も終わり、やっと昼休みということもあって、廊下がやけに騒がしかった。他の教室で食べるものや渡り廊下で食べようとするもの、学食へ足を運ぶものなど、みな思い思いに昼休みを過ごす。
 そしてあたしはといえば、教室で椅子に座っていた。教室にはあまり人がいなかったのだけど、それでもこれはちょっと居心地が悪い。そりゃあまあ、入学したてでしょうがないかもしれない。周りの皆は元々一緒の学校なわけだし。しかしこれはどうだろう。げん君があたしの目の前で座っている。向こうも喋らないから、ずっと沈黙だ。
 運が悪いのかなんなのか、うっかり西野君に見つかって、そのまま手を引かれていつの間にかあたしの席を用意された。机を四つくっつけて、あたしとあっちゃん、西野君とげん君で利用する。ご飯を一緒に食べよう、ということなんだろう。

「まぁ、あんま気にすんな」

 げん君が携帯をいじりながらそう言う。あっちゃんは少し用事があるらしく、少し席を外している。あたしがげん君に視線を向ければ、彼はあたしの方を見た。そしてパチンと携帯を閉じる。

「アイツ、優羽のこと嫌いか?」
「嫌いって…」

 まだ入学して数日しか経っていない。嫌いもなにも判断なんて出来るわけないだろう。まぁ、第一印象は良くなかったけどさ。
 あたしがそう言えば彼は、そうか、としか言わなかった。

「じゃあ、何で優羽を呼ばない?」
「呼んでるじゃん…」
「お前は、仲が良くなるとあだ名っぽい感じで呼ぶだろ。未だにお前は“西野君”だ」

 げん君にそう言われ、思わずたじろぐ。だ、だってさ…。

「あっちゃんに引っ付きまわってるから、あまり気に入らないっていうか…」

 西野君とあっちゃんは合ってるとは思えない。二人が引っ付くなんて想像もできない。いやっ! したくない!

「あたし、二人は合わないと思うんだよね」
「まぁ俺もそう思うわ」

 あれ、二人は友人だから何かフォロー回るかと思ったんだけど。予想外というかなんというか。

「アイツ表面上は、あまり良いところないからな」
「ダメダメじゃん…」
「ダメダメだよ」

 じゃあ、何でげん君は西野君に何も言わないんだ。そう思ってげん君を見れば、それを察したのか、口を開く。

「南の能力は、相手の思考を視ることだろ」
「そう、だけど」
「そういうこと」

 どういうことよ! そう思って机をバンっと叩いても、彼は何食わぬ顔をしている。なによ、何が言いたいのか分からないよ。

「あっちゃんは、西野君のこと、好きなのかな」
「俺は南じゃねーから、知らねぇ」

 その後も、色々と西野くんのことを聞くも、正直良いところが見つからない。ダメじゃん、聞けば聞くほどいいところが見つからないじゃん! 何この難易度の高い間違い探しは! 彼は正直に話してるだけだし、軽く聞いて損したかも…。

「訳分からない…」
「アイツのこと知らないからだろ」

 むぅ…。

「あたしちょっと飲み物買ってくる」
「おー、いってら」

 彼はヒラヒラと腕を振っていた。



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