いまのってセーフ?

「由希ー!いい加減遅刻するよー!」

 扉の向こうでお母さんの声がする。そんなお母さんの声を聞きつつも、小さく唸ってから、扉から背を向けるように、寝返りをうった。
 お願い、もう少し…。もう少しだけ寝かせて…。昨日色々あって、まだ疲れが取れてないの…。まだ起きるのには少し早い。ほんの少し。

「待ってあと五分…」
「その五分が命取りになりますよ。由希さん」
「ひっ」

 布団を思いきりはがされ、布団にくるまっていたあたしは、その引っ張られた方に、ごろごろと転がった。一気に寒気があたしを襲って、二度寝どころの騒ぎじゃない。まだ春先の、この朝方の寒さはわたしを殺しにかかっているのかってくらい尋常じゃない。
 軽く寝ぼけながら、顔を上げる。

「おはようございます。由希さん」

 まだ起きたばっかりで、思考がハッキリしていない。
 ボーッとしていれば、ようやく目覚まし時計が鳴り響く。この一分後には携帯のアラームが鳴り出すだろう。どうにも朝は苦手だ。
 軽く目をこする。

 ……ん? あれ? あたしさっきから、誰と話してるんだ?

 もう一度、しっかりと顔を上げれば、目の前の彼女は笑みを見せた。

「おはようございます。二度目ですね」
「あ、あっち、」

 彼女の名前を呼ぼうとした瞬間に、ずるっとベットの端から手を滑らせた。
 ごちんっ! とあたしの頭と床がぶつかった音が響く。いたた…オデコから落ちた…。軽く額を撫でていれば、扉の開いた音がし、そちらを見るとけらけらと笑うお母さんの姿。

「素直に起きないからそうなるのよー」
「うっ、って何であっちゃんがここに…!」
「アンタを待ってたから、中に入れたのよ。ついでに起こしてもらうと思ってね。これからも、起こしてもらえば?」

 お母さんからあっちゃんに視線を動かせば、少し眉を垂れながら、迷惑でしたか? と聞かれる。それにあたしは勢い良く首を横に振れば、お母さんに再び笑われた。

 あたしが引っ越してきたここは、俗に言う田舎であって、ご近所付き合いが良い。だから、あたし達をご近所さんは温かく迎えてくれたし、嬉しい。けれど、田舎の怖さとは、こういうことだ。ご近所に不審な人なんていないという考えから、簡単に人を家に上げる。
 いや、あっちゃんは不審者でもなんでもないが。あたしのし、ししし親友、だし。いや、あたしだけかもしれないけどさ、そう思ってるの。

 まぁ、それはひとまず置いといて、兎に角、簡単にあっちゃんを家にあげたお母さんは、そのまま台所に向かってった。

「わざわざ起こしてくれてありがとう、あっちゃん」
「いえ、気にしないでください」

 あっちゃんはそう言えば、彼女の手に持っていた布団を、ベッドの上に置き、そのまま部屋の外に行こうとする。
 あれ、あっさり…。

「いくら同性とはいえ、他人に着替えられるのは、やはり気を悪くすると思いまして」
「は、」

 軽く笑みを見せてから部屋をでるあっちゃんを見ると、思わず惚れてしまいそうになる。いや、だから私はそういう思考を持ち合わせてはいない。
 取り敢えず急いで着替えて、部屋を出れば、あっちゃんがあたしを待っていた。

「朝食、冷めてしまいますよ?」
「う、うん!」

 あたしがバタバタと、少し慌てながら台所に向かえば、後ろから微かに、あっちゃんが少し笑ったような声が聞こえた。



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