あでやかな紅に爪を染め
キーンコーンカーンコーンというチャイムが学校に鳴り響く。
小学校の時から聞きなれて、天国のように聞こえる時もあれば地獄の合図でもあるような音。
あたしはそのチャイムが鳴ると同時に、教室を飛び出していた。
あたしはこの音は昔の日本のお偉い音楽家が作って、強制で使われてるのかと思ってた。けど、その間違いを指摘してきたのはげん君だった。げん君本人は「いいんじゃないか? お前がそう思ってるならそれで」と投げやりな感じで言われた。なんだかムカついたので腹をグーパン(まあ止められたけど)したら「フランスの作曲家ルイ・ヴィエルヌによって作曲されたオルガン曲だよ」と、眉間にしわを寄せながら、あたしの手を雑に放って言った。
どうやらこの音は強制で使われているわけではなくて、違う曲を使っている学校もあるんだそうだ。実際に大学では使わないところも多い。
羨ましい。素敵なクラシックとか流れたらおしゃれに感じるのに。
そう呟けば「このチャイムだって『ウェストミンスターの鐘』という立派なクラシック音楽だぞ」と言いくるめられてしまった。なんでげん君はこんなに詳しいんだろう。
なんて、少し前の話を思い出しながら階段を下りる。
もうちょっと夏休み。期末テストという地獄は待っているけれど、それさえ乗り切ればあとは楽しみな夏休み!!
そうやって、少し生徒の浮き足がふわふわと浮く頃。
あたしは昨日言ってたとおり、生徒会室におじゃましようと思っていた。
思ってたんだけど、生徒会は渡り廊下(しかも1階しかない)を通っての塔にある。そしてその渡り廊下は教務室とかが置いてある。
ちょうどその前を通った時、ガラリと扉が開いた。
「あ、北村」
声をかけてきたのは白奈先生だった。
嫌な予感がする。
そのカンはいやに当たり、先生はチョイチョイと手招きをした。
「これ、教室に運んどいてくれない?」
「え、ええ…今ですか…」
「うん。今」
そんな……。チャイムと同時に教室出たんですよ…。それにさっきまで先生教室居たじゃん…なんでここに居るの……。
くっそう…。なんて小さくブツブツ呟いてたら、先生がニコリと笑みを浮かべた。あ、これあかん奴ってやつだ。黒い笑顔だ。
「先生に逆らえるほどお前も偉くなったもんだなあ」
「え、そんなわけじゃ…!」
「成績ギリギリ見逃してあげてる先生に恩も返せないのか?」
「すみませんでしたああああ!!!」
口調が黒くなった先生から預かった荷物を、抱えながらダッシュでその場を去った。ぐう…! 荷物多い重い!
先生は本当に偶に人が変わったかのように性格が変わる。二重人格ってこういうことを言うのかな。
バタバタと走って教室に入る。教室には多くの人が勉強していた。そうだよね、テスト週間だもんね。テスト週間なのに、なんであたしはこんなバタバタしてるんだろう。
軽く遠い目をしてからハッとして踵を返した。
そうだそうだ、生徒会室へ行かなきゃ。会長さんに会いに行かなきゃ。
再び教務室の前を通ろうとした時に、再び扉がガラリと開いた。
「あ、北村」
出てきたのは、また白奈先生だった。
「え、どうしたんですか…」
「これからどこ行くの?」
「え、生徒会室ですけど…」
「そっか! じゃあ、これもお願いしてもいいかな」
「は、はあ!!??」
さっき、ついさっきあたしに荷物運んでくように頼んどいて!? また!? 頼むの!? この先生は!!
あたしが信じられんと目を開いていると、先生はどうしたの? と首をかしげる。いやいや、どうしたのじゃないよ。先生が頼んできたんだろう。
「だったら、さっき一気に頼んでくれたって…」
「え? さっき?」
「はい…」
確かに、またここ通るけどさ…。その時に言ってくれたりとかしてくれればさ…。
なんて思っていれば、先生は首をかしげている。
「何かたのんだっけ…」
「は?」
「は? って北村…。先生に対しての口調じゃないよ? それ?」
頭をがしりと掴まれて、黒い笑顔でそう言われる。
ごごごごごめんなさいひえええ…!!
軽く震えながら、すみません! と謝っていれば、先生はスっと手を離した。
それじゃあお願いね。
そう言ってあたしに手渡してきたのはプリントの束が入ったダンボール。見かけよりは重くない。
くっそう…。なんでこうも2回もパシられなければならないんだ…。
駆け足する気力はとうに無くなって、のそのそと生徒会室を目指して歩きだした。
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