ぶくぶくあぶく
朝日実と名乗った彼は、私より背はだいぶ低かったけれど、年上の方だったらしい…。うう申し訳なかった…!
授業も終えて、彼が歩く数歩後ろをついて歩く。彼は大きなカバンを持ってるんだけど、その中身がとても気になる。
ゆう君が、能力ならこの人が詳しいと言っていたけれど、どういうことなんだろう…。それに、グレアに住んでると言っていた。グレアくらいなら知っている。それに、時羽依頼所があるところとも、この間知ったし。
グレアは、日本としか関係を持っていない国。もはや日本の48番目の都道府県という感じだ。けれど、その国は独自の文化もあって、それを残すために、独立している。言葉も名前も日本と同じだけれど。
けれど、昔から日本としか関わっていなかったらしく、外国はグレアという国の存在すら知らない。むしろ、外国からグレアという国に行くことはできない。
簡単に言えば国家機密みたいなものだ。日本人ですら、グレアに行くことはめったにない。むしろ、グレアを知らない人だっている。世界地図にも載っていないから、授業でも習わないからだ。
けれど、私は知っていた。なんでか、は、分からないけれど…。
「由希って言ったっけ?」
「え、あ、はい」
「敬語なんていいよ。俺は学校に通ってないようなもんだし。先輩なんてツラじゃないしね」
笑顔でそう言われても、ちょっと戸惑いは生まれるんだけれども…。
でも、そう言ってくれるんだったら…。
「じゃ、じゃあ…朝日君で……」
「実って呼んでよ〜!」
「じゃあ実君」
「うん、ありがと!」
いつものノリであだ名つけたら、ちょっと流石にね…。ってことで、名前呼びにした。いや、半分させられたか。
しばらく歩いて着いた先は、芸術科の塔。前に見学に来た時以来だ…。
前は音楽の方に行ったけれど、実君が歩く先は美術系の方だ。
「こっちは初めてだなあ…」
「そうなんだ。まあでも時羽大きいもんね。迷子とかにならなかった?」
「なった! 学校に入学したての時、どっちだっけって…」
俺も初めて来た時は迷ったよ、と実が笑いながら言う。仲間がいた…!
美術科の方でも、パソコンが並んでいる部屋もあれば、美術室という感じの部屋とか、あとは授業を受ける場所のようなところ。あとは技術室みたいな所などがある。
本当に、この学校は設備とかしっかりしてるんだなあ。
まあ、SBで所々ボロいところはあるけれど。そういえば、修復ってどうやってるんだろ。すっごい今更な気がするけどね。
周りを見渡しながら歩いていると、実がとあるところを指さす。
「ここに入ってよ」
「あ、うん…」
先に扉を開けて中に入った実君の後を追い、中に入れば、思わず目を開いた。
部屋中の壁に色々な絵が描かれている。他にも色々なキャンパスも置いてあって、どれも綺麗な色使いで、綺麗な絵が描かれている。
他にも、机の上には手作りのものであろう、小物とかもあって…。なんて言おうか、芸術家の部屋って感じかな…。
「びっくりした?」
「う、うん…」
「普段は学校に通ってないから、ここにはあまり来ないんだ。けど、たまに学校に来るときに此処に寄って、残していくんだよ」
「何を?」
「作品を」
そう言って彼がカバンの中から、とあるものを取り出した。
よく見てみると、それはキャンパスのようだ。そっか、絵が入ってたんだ…。
「これが宿題」
「宿題?」
「通信教育みたいなものだよ。学校に行かない代わりに、課題をやって学校に提出する。いつもだったら別の人が持っていくんだけど。今日は俺が来ちゃった」
へへ、と笑みを浮かべる。
でも、なんで通信教育?
見た感じ体が弱そうという感じでは、なさそうだけど…。確かに身長は小さく、体は細身だ。だけど、顔色は悪くない。
あたしが疑問気だったのが分かったのだろう、彼は軽く笑いながら口を開く。
「義兄が厳しんだよ…」
彼が言うには、彼は昔かなり体が弱かったらしい。今も平均男性ほどの体力等はないらしい…。ちょっと、申し訳なく感じた…。
そんな彼には義兄が居て、その彼が昔の実を知っているから、ちょっと過保護なんだそうだ…。難しい話だ。
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